(7) 原告パズルFについて
原告パズルFは,3種類の缶を載せた二つの天秤の釣り合いの状況から,
3種類の中で最も軽い缶を答えさせる問題である。これは,連立方程式の応
用問題であり,3種類の缶をX,Y,Zと置き換えれば,二つの方程式〔2
X+Y+Z<2Y+2Z〕,〔X+2Y+Z=X+2Z〕となるから,この
二つの方程式を天秤と3種類の缶でビジュアル化したパズルである。
被告パズルFも,3種類のボールを載せた二つの天秤の釣り合いの状況か
ら,3種類のボールの中で最も軽いボールを答えさせる問題であり,3種類
のボールをX,Y,Zと置き換えれば,上記の方程式と全く同じ方程式とな
るものである。
このような着想によるパズルは,平成3年発表の原告パズルFよりも以前
から存在し,例えば,昭和45年発行の高野一夫著「数学のあたま」(講談
社発行)には,3種類のおもりを載せた二つの天秤の釣り合いの状況から,
一つの皿に特定の種類のおもりが5個載せられた別の天秤が釣り合うように
他の皿に載せるべきおもりを答えさせる問題(方程式で表せば,〔X+2Y
=3Z〕,〔2X=Y+3Z〕の際に,〔5Y〕と等号で結ばれるX,Y,Z
- 52 -
の組合せを問う問題)が掲載されている(乙9)。
以上を踏まえて検討するに,重量の異なる複数種類の物を載せた二つの天
秤の釣り合いの状況から,複数種類の物の軽重を問うことは,数学の連立方
程式を天秤等を使用してビジュアル化するとのアイデアであり,このような
アイデア自体を特定の者に独占させることは相当ではないことは明らかであ
る。しかし,重量の異なる3種類の物を載せた二つの天秤の釣り合いの状況
から,3種類の物の軽重を問うパズルを表現する場合,連立方程式の組合せ
は無数に考えられるのであるから(現に,原告パズルFと乙9パズルに用い
られた方程式は異なっているし,原告パズルFに用いられた連立方程式の元
になった〔2X<Y+Z〕,〔2Y=Z〕の両辺に適宜X,Y,Zを左右に
同数ずつ付加することによっても,無数の連立方程式を得ることができる。),
このようなパズルには作者により表現の選択の幅があるものということがで
き,原告パズルFは,特定の連立方程式を採用した上で,これを天秤等でビ
ジュアル化したイラストで表現したパズルであり,全体として作者の個性が
表われた創作的な表現であると認められる(特定の連立方程式をこのように
天秤等でビジュアル化したイラストで表現したものを特定の者の著作物とし
て保護しても,他に無数の連立方程式が考えられるのであるから,特段の不
都合は生じないというべきである。)。
そして,原告パズルFと被告パズルFとは,天秤に載せる3種類の物が缶
であるかボールであるか,また,天秤の図柄においてこそ違うものの,イラ
スト全体としては顕著な差異はなく,いずれも〔2X+Y+Z<2Y+2Z〕,
〔X+2Y+Z=X+2Z〕をビジュアル化した二つの天秤を用いて,3種
類の物のうち最も軽いもの(方程式に即していえば,X,Y,Zのうち最も
小さいもの)を答えさせるというパズルであり,実質的に同一のパズルであ
ると認められる。
さらに,被告パズルFは,平成3年に原告パズルFが公刊物に掲載された
- 53 -
後の平成17年に発表されたものであり(上記第2の1(1),(9)),また,
上記のとおり,原告パズルFと被告パズルFとでは同一の連立方程式を採用
しており,偶然に同一の連立方程式を採用する確率は極めて低いこと,原告
パズルFが掲載されている「パズルの帝国」と被告の執筆した書籍との間に
は,ほかにも類似した問題が存在することに照らせば,被告パズルFが原告
パズルFに依拠して作成されたことを認めることができる。
被告は,平易かつシンプルな問題とするためには,3元で等式・不等式を
作成することは必然であり,かつ,各係数を0~2にすることも当然である
から,問題に使用できる3元の等式・不等式の範囲は極めて限られること,
及び,かような等式・不等式の組み合わせ自体も,一つのアイデアにすぎな
いのであって,等式・不等式の組み合わせ自体は創作性のある著作物と認め
られるものではない,と主張する。
しかし,等式・不等式の組合せ自体は一つの数学的な問題と解答(アイデ
ア)であるとしても,多数の三元一次方程式の中から特定の組合せを選択す
ること,及び,これを天秤と3種類の物で表現することまで具体化していく
と,作者の個性的な表現が可能となるものであり,これを特定の者に独占さ
せたとしても,多数の三元一次方程式の中から原告パズルFとは異なるもの
を選択してパズルを作成することができるのであるから,特段の不都合は生
じないというべきである。
以上によれば,被告パズルFは,原告パズルFについての原告の複製権を
侵害したものと認められる。






