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2006年2月の24件の記事

平成20年1月31日 東京地裁 平成18(ワ)13803号 損害賠償請求事件(著作権) 16

h) 仮に,原告パズルFに著作物性が認められるとしても,3元の等式・

不等式の組み合わせ自体においてではなく,問題文の表現とあわせて一

体のものとして初めて著作物性を肯定できるにすぎない。

原告パズルFと被告パズルFとは,問題文及びイラストの表現におい

て異なっており,原告パズルFと被告パズルFとの間に著作権法上の複

製としての実質的同一性は存しない。

〔2a+b+c=b+2c〕,〔a+2b+c>2a+2c〕という

等式・不等式の問題自体はアイデアであり(あるいはありふれた表現に

すぎないのであり),「表現上の本質的な特徴」にはあたらない。かよ

うな等式・不等式の問題を天秤と重りに置き換えて問題とすることもア

イデアにすぎない。仮に原告パズルFに著作物性を認めるとすれば,そ

れは問題文などの具体的な表現における創作性に見出されることになる

ものの,原告パズルFと被告パズルFの具体的表現は大きく異なってい

る。

原告が,被告パズルFから直接感得することのできる原告パズルFに

おける表現上の本質的な特徴としてどのような点を主張するのかは明瞭

でないものの,創作的な表現において,両パズルに翻案の関係を見出す

- 33 -

ことはできない。

) 仮に,原告パi ズルGに著作物性が認められるとしても,その類似を主

張できる範囲は極めて狭い。しかし,原告パズルGと被告パズルGとは,

問題文の表現が異なるだけでなく,被告パズルGには,原告パズルGの

図1に対応するものが存在しないし,各回答の選択肢の順序も異なって

いる。原告パズルGと被告パズルGとの間に著作権法上の複製としての

実質的同一性は存しない。

j) 仮に,原告パズルHに著作物性が認められるとしても,その類似を主

張できる範囲は極めて狭く,被告パズルHは原告パズルHと表現を異に

するものであるから,原告の複製権を侵害するものではない。

k) 仮に,原告パズルIに著作物性が認められるとしても,その類似を主

張できる範囲は極めて狭く,被告パズルIは原告パズルIと表現を異に

するものであるから,原告の複製権を侵害するものではない。

被告パズルIは,5角形を描いているマッチ棒が「円」を表現するよ

うにするところに問題のおもしろさを創り上げているのに対し,原告パ

ズルIは,古来からある種々の「円」の表現を考えさせ,4通りの解答

を求めている。

l) 仮に,原告パズルJに著作物性が認められるとしても,その類似を主

張できる範囲は極めて狭く,原告パズルJがマッチ棒1本で「一」が示

され,2本で「十」が示され,3本で「千」が示されるというアイデア

を「千」からの減算で問題としたものであるのに対し,被告パズルJは

「十」から「千」への変化にのみ着目して問題としているなど,被告パ

ズルJは原告パズルJと表現を異にするものであるから,原告の複製権

を侵害するものではない。

m) 原告パズルKと被告パズルKとは,「山があるのに登れない」という

文章が共通しているだけであり,その余の文章に共通性はない。「山が

- 34 -

あるのに登れない」という文章それ自体に著作物性が認められないこと

は明らかである。

そもそも,原告パズルKと被告パズルKとは全く異なる問題である。

このことは,被告パズルKの答えが「地図」であるのに対し,原告パズ

ルKでは「1つは地図の, 中,もう1つは…」と記述されていることか

らも明らかである。

原告パズルKと被告パズルKとは同一ではない。

平成20年1月31日 東京地裁 平成18(ワ)13803号 損害賠償請求事件(著作権) 17

n) 原告パズルLと被告パズルLとでは,「男」という字について,「田

の下の力持ちとして生きている人」と「田んぼをもち上げている力もち」

というように全く問題文が異なっている。

原告パズルLと被告パズルLとは同一ではない。

o) 複製権侵害の主張において,依拠が推認されるのは,依拠されたとさ

れる表現物(表現A)と依拠して作成されたとされる表現物(表現B)

とを対比してみたときに,表現Aに依拠していなければ表現Bが作成さ

れることはないと考えられる程度に細部まで一致している,誤植まで一

致しているなどの事実が存する場合である。このような場合には,依拠

の事実について事実上の推定が働くことになる。

しかし,原告各パズルは,いずれも古くからあるクイズ問題のパター

ンであり,同様の問題は,先行する表現物においても多数存在していた。

したがって,原告各パズルと被告各パズルとの対比からは,依拠の事

実は到底推認されるものではない。

(3) 争点3(損害額)について

ア原告の主張

原告の損害額は,以下のとおり,86万9539円である。

a) 被告の複製権侵害又は翻案権侵害により原告が被った損害は,被告が

「右脳を鍛える大人のパズル」,「左脳を鍛える大人のパズル」,「なぞ

- 35 -

なぞ3・4年生「なぞ」, なぞ1年2年生」によって得た利益(各出版

社から被告に支払われた印税等)を計算の基礎とすべきである。

b) 平成19年5月末日現在,「右脳を鍛える大人のパズル」は少なくと

も第10刷まで発行されており,初版部数を2万8000部,増刷を各

回3000部とすれば,累積部数は5万5000部(2万8000部+

3000部×9回)である。定価は650円(消費税込)であるから,

印税率を10%とすれば,被告が「右脳を鍛える大人のパズル」におい

て主婦の友社から得た印税額は,357万5000円(650円×10

%×5万5000部)である。

「右脳を鍛える大人のパズル」には80問が収録されており,そのう

ち,原告の複製権又は翻案権を侵害しているのは被告パズルA,B,C,

H,I,Jの6問であるから,「右脳を鍛える大人のパズル」における

複製権侵害又は翻案権侵害による損害は,26万8125円(357万

5000円×80分の6)である。

平成20年1月31日 東京地裁 平成18(ワ)13803号 損害賠償請求事件(著作権) 18

c) 平成19年5月末日現在,「左脳を鍛える大人のパズル」は少なくと

も第10刷まで発行されており,初版部数を2万8000部,増刷を各

回3000部とすれば,累積部数は5万5000部(2万8000部+

3000部×9回)である。定価は650円(消費税込)であるから,

印税率を10%とすれば,被告が「左脳を鍛える大人のパズル」におい

て主婦の友社から得た印税額は,357万5000円(650円×10

%×5万5000部)である。

「左脳を鍛える大人のパズル」には83問が収録されており,そのう

ち,原告の複製権又は翻案権を侵害しているのは被告パズルD,E,F,

Gの6問であるから,「左脳を鍛える大人のパズル」における複製権侵

害又は翻案権侵害による損害は,17万2289円(357万5000

円×83分の4)である。

- 36 -

d) 「なぞなぞ3・4年生」については,初版部数を2万5000部とす

れば,定価は650円(消費税込)であるから,印税率を10%として,

被告が「なぞなぞ3・4年生」について高橋書店から得た印税額は,1

62万5000円(650円×10%×2万5000円)である。

「なぞなぞ3・4年生」の収録数は,出題に連番がないのでカウント

するのが困難であるが,推定200問であり,そのうち,原告の複製権

又は翻案権を侵害しているのは被告パズルKの1問であるから,「なぞ

なぞ3・4年生」における複製権侵害又は翻案権侵害による損害は,8

125円(162万5000円×200分の1)である。

e) 「なぞなぞ1年2年生」については,初版部数を2万5000部とす

れば,定価は630円(消費税込)であるから,印税率を10%として,

被告が「なぞなぞ1年2年生」について西東社から得た印税額は,15

7万5000円(630円×10%×2万5000円)である。

「なぞなぞ1年2年生」の収録数は,出題に連番がないのでカウント

するのが困難であるが,推定150問であり,そのうち,原告の複製権

又は翻案権を侵害しているのは被告パズルLの2問であるから,「なぞ

なぞ1年2年生」における複製権侵害又は翻案権侵害による損害は,2

万1000円(157万5000円×150分の2)である。

f) 原告は,被告各パズルによる氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害に

より,多大な精神的苦痛を受けた。その慰謝料は,諸般の状況を総合し

て,40万円が相当である。

イ被告の主張

争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(原告各パズルの著作物性の有無)及び争点2(複製権及び翻案権侵

害の有無)について

平成20年1月31日 東京地裁 平成18(ワ)13803号 損害賠償請求事件(著作権) 19

- 37 -

(1) はじめに

著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に

依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう

(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145

頁参照)。ここで,再製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成する

ことをいうと解すべきであるが,同一性の程度については,完全に同一であ

る場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうこ

とのない,すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。

また,著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,か

つ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的な表現に修正,

増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,

これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること

のできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は

感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),

既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,

事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部

分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも

翻案にも当たらないと解するのが相当である。(最高裁判所平成13年6月

28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)

このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依

拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の

対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である

(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというために

は,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者

の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきである。換言すれば,

何らかの個性を発揮し得る程度に,いくつかの表現を選択することが可能な

- 38 -

ものである必要があり,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の

表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,

作者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるという

ことはできない。

したがって,数学の代数や幾何あるいは物理の問題とその解答に表現され

る考え方自体は,アイデアであり,これを何らかの個性的な出題形式ないし

解説で表現した場合は著作物として保護され得るとしても,数学的ないし物

理的問題及び解答に含まれるアイデア自体は著作物として保護されないこと

は当然である。このことは,パズルにおいても同様であり,数学の代数や幾

何あるいは物理のアイデア等を利用した問題と解答であっても,何らかの個

性が創作的に表現された問題と解答である場合には,著作物としてこれを保

護すべき場合が生じ得るし,これらのアイデアを,ありふれた一般的な形で

表現したにすぎない場合は,何らかの個性が創作的に表現されたものではな

いから,これを著作物として保護することはできないというべきである。

以下,原告各パズルと被告各パズルについて,その同一性ないし共通性を

有する部分を認定し,この部分が著作権法による保護の対象となる思想又は

感情を創作的に表現したものといえるかどうかについて,個別に判断する(な

お,パズルによっては,原告各パズル自体の著作物性を判断し,これと被告

各パズルとの類似性を併せて判断することもある。)。

(2) 原告パズルAについて

原告パズルAは,1本の糸を用いて,この糸を上下に交差させた部分(以

下「交点」という。)を6点有する形状のものをAないしDの4箇所にわた

って設け,その糸の両端を引いた際に結び目がAないしDのいずれにできる

かを当てさせる問題である。すなわち,複数の交点を持つAないしDの四つ

の形状の各糸の両端を引いた際に,AないしDの糸のいずれに結び目ができ

るか否かとの問題と実質同一の問題である。

- 39 -

これに対し,被告パズルAも,同様に交点を6点有する形状の①ないし④

のひもを並べ,それぞれ両端を引っ張ったときに結び目ができるもの一つを

選ばせる問題である。そして,原告パズルAの糸Aは被告パズルAのひも④

と,原告パズルAの糸Bは被告パズルAのひも②と,原告パズルAの糸Cは

被告パズルAのひも③と,上下6箇所の交点が同一であるから同一形状のも

のであり,いずれも両端を引っ張っても結び目ができないものである。これ

に対し,原告パズルAの糸Dと被告パズルAのひも①は,両端を引っ張ると

結び目ができる点では共通しており,全体の形状として類似しているものの,

上下6箇所の交点のうち3箇所の上下が異なるから,同一形状のものではな

い。

このような着想によるパズルは,平成11年発表の原告パズルAよりも以

前から存在し,例えば,昭和44年発行の辰野千寿指導・大島正二出題「ク

イズの学校1」(講談社発行)には,5箇所の交点を有するひも2種類と,

6箇所の交点を有するひも1種類の両端を引いた際に結び目ができるか否か

を問う問題が掲載され(乙1。以下「乙1パズル」という。),昭和53年

発行の辰野千寿指導「なぞなぞちえブック」(講談社発行)には,13箇所

の交点を有するひも1種類の両端を引いた際に結び目ができるか否かを問う

問題が掲載されている(乙2。以下「乙2パズル」という。)。また,昭和

48年発行の本間龍雄著「新しいトポロジー」(講談社発行)には,このよ

うな結び目が,1920年代以降,トポロジストによって数学的に研究され

たことが紹介され,任意の結び目が与えられたときに,それがほどけるかど

うかを判定する方法が述べられている(乙3)。

以上を踏まえて検討するに,原告パズルAと被告パズルAに共通する6箇

所の交点を持つ糸あるいはひもの形状それ自体は,図形と同一視できるもの

であるから,この6箇所の交点を持つ糸あるいはひもの形状それ自体を特定

の者に独占させることは相当ではなく,これらの各糸あるいはひもの形状自

- 40 -

体を著作物として保護することは相当ではない。また,複数の交点を持つ糸

あるいはひもの両端を引いた際に結び目ができるか否かに着想を得たパズル

を表現する場合,パズルの性質上,組み合わせる交点の数は一定の範囲に限

られると考えられるものの,交点の数を6とするかその前後の数とするかに

ついては選択の余地があり,また,交点の数を6と決めた場合でも,まず,

全体の糸あるいはひもの数を4通りとするかその前後の数とするかについて

選択の余地があり,さらに,糸あるいはひもの数を4通りとした場合でも,

6箇所の交点を有する糸あるいはひもにおける,各交点における糸あるいは

ひもの上下関係や複数の交点の配置の選択の範囲は,少なくとも64通り(2

の6乗)存在するのであるから(なお,左右対称のものを同一と見ても32

通り存在する。),この中から,両端を引っ張って結び目を作らないものを

3通り,結び目を作るものを1通り選択して問題を作成する場合,その選択

(組合せ)については,作者により様々な選択(組合せ)が考えられるもの

である。

この観点からすると,原告パズルAは,6箇所の交点を有する,結び目を

形成しない3通りの糸と結び目を形成する1通りの糸の合計4通りの特定の

形状の糸の選択(組合せ)により,特定のパズルを具体的に表現した点にお

いて,作者による個性的な創作的表現があると認められるから,これを編集

著作物性を有する著作物として保護すべきものと認められる。

これに対し,被告パズルAは,6箇所の交点を有する,結び目を形成しな

い3通りのひもと結び目を形成する1通りのひもの合計4通りのひもを選択

し組み合わせた点,及び,結び目を形成しない3通りのひもの形状(6箇所

の交点の位置)が,原告パズルAと全く同じものを選択した点で原告パズル

Aと同一であり,他方,結び目を形成する1種類のひもについては,全体の

形状として類似しているものの,6箇所中3箇所の交点において原告パズル

Aとはひもの上下関係が異なるひもを選択した点において,原告パズルAと

- 41 -

異なるものである。

以上によれば,被告パズルAは,6箇所の交点を有している形状のひも4

種類を選択し,そのうち3種類を結び目を作らないひもとし,1種類を結び

目を作るひもとした点,特に,結び目を作らないひも3種類について,6箇

所の交点の組合せにおいて,原告パズルAと異なる組合せから成るひもを選

択することも十分に可能であるのに,原告パズルAにおいて選択されている

糸と全く同じ組合せから成るひも(同じ形状のひも)を選択した点,残り1

種類の結び目を作るひもも,原告パズルAの糸とは6箇所の交点中,3箇所

の交点の組合せが異なる形状のひもであるものの,全体としてみると原告パ