大阪を代表するプロ野球チームの球団歌といえば?
皆さんは阪神タイガースの球団歌「六甲おろし」をご存知でしょうか?正解は「六甲おろし」です。作詞は佐藤惣之助、作曲は古関裕而によるもので、現存する日本プロ野球球団の球団歌の中で最も古いものでもあります。
しかし、この問題には実は深い歴史と興味深いエピソードが隠されているのです。まず驚くべきことに、阪神タイガースは確かに大阪を代表するプロ野球チームとして親しまれていますが、実は本拠地は兵庫県西宮市の阪神甲子園球場なのです。つまり、厳密には兵庫県のチームということになります。それでも関西圏全体、特に大阪の人々に愛され続けているのは、関西の一体感と阪神電鉄沿線の文化圏としての結びつきの強さを物語っています。
「六甲おろし」が誕生したのは1936年(昭和11年)のことでした。当時の日本は軍国主義が台頭し、スポーツにも国威発揚の要素が求められる時代背景がありました。作詞者の佐藤惣之助は、「長崎の夜はむらさき」「人生劇場」などで知られる国民的詩人で、庶民の心に響く言葉を紡ぐ天才でした。一方、作曲者の古関裕而は後に「栄冠は君に輝く」(全国高等学校野球選手権大会の歌)や「オリンピック・マーチ」を手がける昭和の名作曲家として知られています。
興味深いのは、この楽曲が生まれた経緯です。阪神電鉄の経営陣が球団の人気向上と観客動員数増加を狙い、当時としては画期的なアイデアとして球団専用の応援歌を作ることを発案しました。現在では当たり前のように各球団が球団歌を持っていますが、当時はまだそのような概念すらなかった時代だったのです。
「六甲おろし」の歌詞を改めて見てみると、関西の地理的特徴が見事に織り込まれています。「六甲おろし」とは六甲山系から吹き下ろしてくる風のことで、関西地方特有の気象現象を表現しています。この風は冬場に特に強く、大阪湾周辺に住む人々には馴染み深いものです。歌詞中の「颯爽と」「阪神タイガース」という部分では、チーム名を直接歌詞に入れるという、現在では一般的な手法の先駆けとなりました。
また、メロディーの特徴も注目に値します。古関裕而は軍歌調の力強さと親しみやすい民謡調を絶妙に融合させ、老若男女問わず歌いやすく、覚えやすい楽曲に仕上げました。特に「阪神タイガース」の部分の上昇音階は、聴く者の気持ちを高揚させる効果があり、球場での大合唱を意識した構成になっています。
戦後復興期から高度経済成長期にかけて、「六甲おろし」は単なる球団歌を超えた存在になりました。関西人のアイデンティティを表現する楽曲として、また関西弁や関西文化と並ぶ関西の象徴として定着していったのです。特に1985年の阪神タイガース日本一の際には、関西中が「六甲おろし」で盛り上がり、道頓堀川への飛び込みという名物まで生まれました。
現在でも甲子園球場では毎試合、7回裏の攻撃前に全観客が立ち上がって「六甲おろし」を大合唱する光景が見られます。これほど長期間にわたって愛され続けている球団歌は世界的にも珍しく、日本の野球文化の特徴的な側面を表していると言えるでしょう。
さらに興味深いのは、この楽曲が現在でも著作権管理されており、商業利用には許可が必要だということです。それにも関わらず、関西の結婚式や祝賀会では必ずと言っていいほど歌われ、関西人の人生の節目を彩る楽曲として機能しています。
このように、「六甲おろし」は単なるスポーツの応援歌を超えて、関西文化そのものを体現する楽曲として、今日まで愛され続けているのです。大阪を代表するプロ野球チームの球団歌として、これからも多くの人々の心に響き続けることでしょう。
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