第2回:創作物の定義と範囲 – どこからが保護対象になるのか

こんにちは。著作権解説シリーズの第2回目にお越しいただき、ありがとうございます。

前回は著作権の基本的な概念についてお話ししましたが、今回は「いったい何が著作物として保護されるのか」という、とても重要な問題について詳しく見ていきましょう。

「私が書いた日記は著作物なの?」「子どもが描いた絵も保護される?」「会社で作った資料の著作権は誰のもの?」そんな疑問にお答えしていきます。

著作物って、具体的に何のこと?

著作権法では、保護の対象となる「著作物」について明確な定義を設けています。すなわち、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法第2条第1項第1号)。

この定義には、実は4つの重要な要素が含まれています。順番に見ていきましょう。

1. 「思想又は感情」が込められていること

まず、著作物には作者の内面的な表現が必要です。単純な事実の記録や、機械的なデータの羅列は著作物にはなりません。

たとえば:

  • 著作物になるもの: エッセイ、日記、体験談
  • 著作物にならないもの: 電話帳の氏名一覧、時刻表の数字

興味深いことに、この「人の心や考え」は人間特有のものとされています。つまり、AIが自動生成した文章や、動物が偶然作り出した模様などは著作物として認められていません。

2. 「創作的に」表現されていること

ここでのポイントは、必ずしも世界初のアイデアである必要はないということです。作者の個性やセンスが少しでも表れていれば十分なのです。

たとえば:

  • 小学生が書いた作文や絵画も立派な著作物
  • プロでなくても、個人の感性が込められていれば保護対象
  • ただし、他人の作品をそのまま模倣したものは除外

一方で、誰が作っても同じような結果になってしまう表現は「創作」性が認められません。例えば、「今日は晴れです」のような単純な表現は著作物にはなりません。

3. 「表現」として形になっていること

頭の中にあるアイデアや構想だけでは著作物になりません。何らかの形で外に表現される必要があります。

たとえば:

  • 著作物になるもの: 紙に書かれた小説、録音された音楽、描かれた絵画
  • 著作物にならないもの: 頭の中にある小説のプロット、作曲アイデア

ただし、この「表現」は有形物である必要はありません。口頭での講演や音楽パフォーマンスなども、その場で表現された瞬間から著作物として保護されます。

4. 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属すること

これは範囲を限定するための要件ですが、実際にはかなり広く解釈されています。現代では、コンピュータープログラムやゲームソフトなども含まれます。

著作物の種類を知ろう

著作権法では、保護される著作物を具体的に分類しています(第10条第1項他)。主なものを見てみましょう。

文章系の著作物

  • 文芸作品: 小説、詩、エッセイ、ブログ記事
  • 学術論文: 研究論文、解説書、技術文書
  • 脚本: 映画やドラマの台本、舞台の脚本

音楽系の著作物

  • 楽曲: メロディーやハーモニー
  • 歌詞: 楽曲に付随する歌詞(単独でも著作物)

視覚的な著作物

  • 美術作品: 絵画、彫刻、イラスト、書道作品
  • 写真: プロの写真からスマホで撮った写真まで
  • 建築物: 芸術性のある建物や建築設計図

映像・デジタル系の著作物

  • 映画: 劇場映画、テレビ番組、YouTube動画、アニメ
  • コンピュータープログラム: ソフトウェアのソースコード

特殊な著作物

  • 地図・図表: 学術的な図面や統計グラフ
  • 舞踊: バレエやダンスの振り付け
  • 二次的著作物(第11条): 翻訳、編曲、映画化作品
  • 編集著作物(第12条1項): 百科事典、雑誌、詩集(素材の選択や配列に創作性があるもの)

保護されないもの、自由に使えるもの

すべての創作物が著作権で保護されるわけではありません。公共の利益のために、以下のものは保護対象外とされています(第13条)。

  • 法律、政令、条例
  • 裁判所の判決文
  • 国や自治体の告示、通達

これらは国民みんなが知り、従うべきものなので、自由に利用できます。

よくある疑問にお答えします

Q: キャッチコピーは著作物になる?

キャッチコピーや短いフレーズは、通常は著作物として保護されません。ただし、特に創作性の高いものは例外となる場合があります。

Q: 会社で作った資料の著作権は誰のもの?

会社等の法人が公表する著作物が以下の条件をすべて満たす場合、創作した個人ではなく会社が著作者となります(第15条、職務著作):

  1. 会社の発意により作成された
  2. 従業員が職務として作成した
  3. 会社名で公表されるものである
  4. 従業員が著作者とするなどの別段の契約や勤務規則がない

Q: 共同で作った作品の著作権はどうなる?

複数人で創作した著作物で、各人の著作した部分を分離して個別に利用できないものは「共同著作物」となり、著作権は共同著作者全員が共同して行使することになります(第2条第1項第12号)。

Q: 民話や昔話を書き直したら著作物になる?

単に地域に伝承される話をそのまま作品にしただけでは著作物になりません。しかし、独自の表現や構成を加えて創作性を付与すれば、新たな著作物として保護されます。

Q: 外国で作られた作品も日本で保護される?

はい。国際条約により、多くの国の著作物が相互に保護されています。詳しくは第6回で解説予定です。

実生活での注意点

SNSでの投稿

あなたがSNSに投稿した文章、写真、イラストなどは、すべて著作物として保護される可能性があります。他人が無断で使用することは原則として禁止されています。

仕事で作る資料

会社の業務として作成した資料であっても、前述の職務著作の要件を満たさない場合は、作成者個人が著作権を持つことがあります。

子どもの作品

年齢に関係なく、創作性があれば著作物として保護されます。学校の作品展示なども、実は著作権法上の配慮が必要な場合があります。

まとめ

今回は、著作物の定義と範囲について詳しく見てきました。

重要なポイントをまとめると:

  • 著作物は「人の思想や感情を創作的に表現したもの」
  • 年齢や技術レベルは問わない
  • 形として表現されている必要がある
  • 短いキャッチコピーや題名は通常保護されない
  • 会社での創作は職務著作にあたる場合がある

日常生活で私たちが接する多くのものが著作物として保護されていることがお分かりいただけたでしょうか。次回は、著作者が持つ具体的な権利について詳しく解説していきます。

著作権は私たちの創作活動を守る大切な仕組みです。正しく理解して、安心して創作活動を楽しみましょう。


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