第4回: 権利の存続期間とその計算 – いつまで保護が続くのか

皆さんこんにちは!著作権解説シリーズの第4回目をお届けします。今回は「著作権っていつまで続くの?」という、とても実用的で重要な話題について詳しくお話ししていきましょう。

著作権に「期限」がある理由

まず最初に、なぜ著作権に期限があるのかを考えてみましょう。もし著作権が永遠に続いたら、世の中はどうなるでしょうか?

例えば、ベートーベンの「第九」が今でも著作権で保護されていたら、コンサートで演奏するたびに許可を取って使用料を払わなければならないかもしれません。シェイクスピアの作品を学校で教えるのにも許可が必要になるかもしれません。

これでは文化の発展や教育活動に支障をきたしてしまいますよね。そこで法律は、一定期間が経過した後は作品を「みんなの共有財産」として自由に使えるようにしているのです。これを**「パブリック・ドメイン」**と呼びます。

基本的な保護期間の仕組み

原則は「創作者の生涯+70年」

日本における著作権の基本的な保護期間は、創作者が生きている間プラス死後70年間です。これは国際的な標準に合わせたもので、比較的長い保護期間と言えるでしょう。

例えば、2020年に亡くなった作家の作品は、2090年の年末まで保護されることになります。かなり長い期間ですが、これにはちゃんと理由があります。創作者本人だけでなく、その家族や相続人の生活も守る必要があるからです。

計算のスタート地点

保護期間の計算は、実際の死亡日からではなく、死亡した年の翌年1月1日から始まります。これは計算を簡単にするための工夫です。

たとえば、2023年3月15日に亡くなった小説家がいたとします。この場合、保護期間は2024年1月1日から70年間、つまり2093年12月31日まで続くことになります。

特殊なケースの保護期間

匿名・ペンネーム作品の場合

作者が匿名やペンネームで作品を発表した場合、死亡時期が分からないことがあります。そこで、公表された時点から70年間という別の計算方法を使います。

ただし、ペンネームでも「誰の作品か広く知られている場合」(これを「周知の変名」と言います)は、通常の「作者の死後70年」のルールが適用されます。

会社や団体が作った作品

企業のパンフレット、団体のウェブサイトコンテンツなど、会社や団体名義で作られた作品は**「法人著作」**と呼ばれます。この場合の保護期間は、公表から70年間です。

会社は人と違って「死ぬ」ことがないので、公表時点を基準にしているわけですね。

映画作品の特別ルール

映画やアニメーション作品は、多くの人が関わって作る複雑な創作物です。監督、脚本家、音楽家、声優など、たくさんの創作者がいるため、特別なルールが適用されます。

映画の著作権は公表から70年間保護されます。これは、関係者全員の死亡を待つのは現実的ではないからです。

複数人で作った作品はどうなる?

共同創作の場合

小説の原作者とイラストレーターが共同で絵本を作ったような場合、最後に亡くなった人の死後70年間が保護期間になります。

例えば、2020年に原作者が亡くなり、2025年にイラストレーターが亡くなった場合、保護期間は2025年の翌年(2026年)から70年間、つまり2095年12月31日まで続きます。

保護期間の延長問題

50年から70年への変更

実は、日本の著作権保護期間は2018年まで「死後50年」でした。これがTPP協定(環太平洋パートナーシップ協定)の影響で「死後70年」に延長されたのです。

この変更により、多くの作品の保護期間が20年間延びることになりました。しかし、既に保護期間が切れてパブリック・ドメインになっていた作品については、保護が復活することはありません。一度自由に使えるようになった作品は、そのまま自由に使えるというのが国際的なルールなのです。

戦時加算という特殊事情

第二次世界大戦に関連して、「戦時加算」という特殊な制度があります。これは、戦争中に日本と敵対していた国の作品について、戦争期間分(約10年5か月)を追加で保護するというものです。

現在でもアメリカ、イギリス、フランスなどの一部の国の古い作品に適用されていますが、実務上は権利団体同士の話し合いで解決を図る方向に向かっています。

実際の計算例で理解しよう

ケース1:有名小説家の場合

宮沢賢治(1896-1933年死亡)の作品を例に考えてみましょう。

  • 死亡年:1933年
  • 保護期間開始:1934年1月1日
  • 旧制度での保護期間終了:1983年12月31日(死後50年)
  • 実際の状況:既にパブリック・ドメイン

宮沢賢治の作品は、保護期間延長前に既にパブリック・ドメインになっていたため、現在も自由に利用できます。

ケース2:現代の漫画家の場合

2019年に亡くなった漫画家の作品の場合:

  • 死亡年:2019年
  • 保護期間開始:2020年1月1日
  • 保護期間終了:2089年12月31日

このように、現在活動中の創作者の作品は、非常に長い期間保護されることになります。

相続と著作権

権利は受け継がれる

著作権は財産的な権利なので、他の財産と同じように相続されます。作者が亡くなった後は、配偶者や子供、場合によっては出版社などが権利を引き継ぐことになります。

人格的権利は別扱い

一方、「著作者人格権」(作品を勝手に改変されない権利など)は、作者の人格と密接に関わるため、相続されません。ただし、作者の死後も、その人格を傷つけるような利用は禁止されています。

国際的な違いについて

各国の保護期間

世界各国の著作権保護期間には違いがあります:

  • アメリカ:作者の死後70年(企業著作は95年または120年)
  • 中国:作者の死後50年
  • 韓国:作者の死後70年
  • インド:作者の死後60年

相互主義の原則

面白いのは、外国の作品を保護する期間は、その国の保護期間に合わせることができるという「相互主義」のルールがあることです。

例えば、中国の作品は中国で50年しか保護されないので、日本でも50年しか保護しません。逆に、日本の作品も中国では50年しか保護されません。

実務でよくある質問

Q: 権利者が分からない古い作品は使っても大丈夫?

A: ダメです! 保護期間内であれば、権利者が分からなくても勝手に使うことはできません。この場合は「裁定制度」という公的な手続きを利用する必要があります。

Q: 保護期間が切れた作品の翻訳版はどうなる?

A: 翻訳にも著作権があります。 原作の保護期間が切れても、翻訳者の権利は別に存在します。翻訳者の死後70年間は、その翻訳版を使うには許可が必要です。

Q: 保護期間の計算を間違えたら?

A: 著作権侵害になる可能性があります。 不安な場合は、専門家に相談するか、権利者に確認を取ることをお勧めします。

まとめ

著作権の保護期間について、重要なポイントをまとめてみましょう:

  1. 基本は「作者の死後70年」 – ただし例外も多い
  2. 計算は翌年1月1日から – 死亡日そのものではない
  3. 一度切れた保護は復活しない – パブリック・ドメインは永続的
  4. 国によって期間が異なる – 相互主義で調整
  5. 不明な場合は専門家に相談 – 自己判断は危険

著作権の保護期間は複雑に見えますが、基本的な仕組みを理解すれば、多くのケースに対応できます。創作者の権利を尊重しながら、文化の発展も促進する絶妙なバランスが取られているのが、現在の著作権制度なのです。

次回は第5回「隣接する権利の世界 – 演奏家や制作会社が持つ特別な権利」について解説します。著作権とは少し違う、でも同じように重要な権利について詳しくお話ししますので、お楽しみに!


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