はじめに
みなさん、こんにちは。著作権解説シリーズも第9回を迎えました。これまで著作権の基本的な仕組みや正しい利用方法について学んできましたが、今回は、もし著作権を侵害してしまったら一体どのような法的な責任を負うことになるのかについて見ていきます。
「知らなかった」では済まされない著作権侵害の現実について、分かりやすく解説していきます。デジタル時代の今だからこそ、しっかりと理解しておく必要がある重要な内容です。
著作権侵害とは何か
まず、どのような行為が著作権侵害にあたるのかを整理しましょう。
基本的な侵害行為
著作権侵害の典型例として、以下のような行為が挙げられます:
- 無許可での複製:他人の楽曲をCDに焼いて配布する
- 無許可での公衆送信:ブログに他人の写真を勝手に掲載する
- 無許可での翻案:小説を勝手に漫画化する
- 偽装:他人の作品を自分が作ったと偽って発表する
著作者人格権の侵害
財産的権利だけでなく、人格的権利の侵害も問題となります:
- 同一性保持権の侵害:作者の許可なく作品の内容を勝手に変更する
- 氏名表示権の侵害:匿名希望の作者の実名を勝手に公表する
- 公表権の侵害:未公表の作品を作者の意思に反して公開する
みなし侵害
直接的な侵害行為でなくても、以下のような行為は侵害とみなされます(著作権法第113条):
- 侵害複製物の頒布:海賊版と知りながら販売や配布を行う
- 権利管理情報の改変:作品に付された著作権情報を故意に削除・変更する
- 技術的保護手段の回避:コピープロテクトを解除して複製する
民事上の責任 – 損害賠償による救済
著作権を侵害された権利者は、侵害者に対して以下のような民事上の請求を行うことができます。
1. 侵害行為の差止請求(著作権法第112条)
これは最も基本的な救済手段です。
具体例:
- 違法にアップロードされた動画の削除請求
- 無許可で使用されている楽曲の使用中止請求
- 海賊版商品の製造・販売の停止請求
権利者は裁判所に仮処分を申し立てることで、迅速に侵害行為を止めさせることが可能です。
2. 損害賠償請求(民法第709条・719条、著作権法第114条)
侵害により生じた損害の賠償を求めることができます。
損害額の算定方法:
ルール①(著作権法114条1項)
損害額 =「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」−「権利者が販売等を行えない事情に応じた金額」
要するに、侵害行為がなければ著作権者が販売して得られたであろう利益を損害として計上する方法です。
ルール②(著作権法第114条第2項)
損害額=「侵害者が得た利益」
なお、これはあくまで推定ですから、侵害者は、権利者の実際の損害額がより少ないことを反証する余地があります。
ルール③(著作権法第114条第3項)
損害額 =「ライセンス料相当額」
この算定方法は、権利者がライセンス料として適切な額を立証すれば、侵害者としては実損害がそれより低額なことを反論する余地がないことに特徴があります。
3. 不当利得返還請求(民法第703条・704条)
侵害者が不当に得た利益の返還を求めることができます。損害賠償請求と同時に訴求されることが多いです。
4. 名誉回復措置請求(著作権法第115条)
著作者人格権を侵害された場合、謝罪広告の掲載などを求めることができます。
名誉回復措置の具体例:
- 新聞への謝罪広告掲載
- ウェブサイトでの訂正文掲載
刑事上の責任 – 国家による処罰
著作権侵害は単なる民事紛争ではなく、刑事罰の対象となる犯罪行為です。
基本的な刑事罰の体系
著作権・出版権・著作隣接権侵害(著作権法第119条第1項)
- 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金
- 両方が併科される場合もあります
著作者人格権・実演家人格権侵害(著作権法第119条第2項)
- 5年以下の懲役または500万円以下の罰金
法人の場合の加重処罰(著作権法第124条第1項)
- 3億円以下の罰金
親告罪の特徴
著作権侵害の多くは親告罪です(著作権法第123条第1項)。これは以下を意味します:
- 権利者の告訴が必要:警察が勝手に捜査を始めることはできません
- 告訴期間の制限(刑事訴訟法第235条):権利者が犯人を知った日から6か月以内
- 告訴の取消し可能:起訴前であれば取り下げることができます
ただし、一部の重大な侵害(営利目的・継続的侵害など)については非親告罪とされています。
特別な刑事罰
違法ダウンロード(著作権法第119条第3項) 以下の要件を満たす場合、私的使用目的であっても2年以下の懲役または200万円以下の罰金:
- 違法アップロードと知っていて
- かつ、有償提供されている著作物と知っていて
- 自動公衆送信でデジタル録音・録画を行った場合
具体例から学ぶ
ケース1:音楽の海賊版販売
事案:人気アーティストのCDを大量に複製し、フリーマーケットで販売 罰則の例:懲役2年(執行猶予3年)、罰金200万円 ポイント:営利目的の組織的犯行は重く処罰される
ケース2:映画の違法配信
事案:映画館で撮影した新作映画をインターネットで配信 罰則の例:懲役1年6か月(実刑) ポイント:被害額の大きさと社会的影響を重視
ケース3:写真の無断使用
事案:プロ写真家の作品をWebサイトで無断使用 罰則の例:損害賠償金50万円、謝罪広告掲載 ポイント:刑事責任を負わなくても民事責任は負いうる
法的責任を避けるための実践的対策
1. 事前確認の徹底
- 権利者の特定:誰が権利を持っているかの確認
- 利用許諾の範囲:どこまで使用が認められているかの確認
- 期間・地域制限:いつまで、どこで使えるかの確認
2. 適切な権利処理
- 書面での契約:口約束ではなく文書で記録
- 使用料の支払い:適正な対価の支払い
- クレジット表記:出所の明示
3. 社内体制の整備
- 著作権研修:従業員への教育実施
- チェック体制:使用前の権利確認システム
- 相談窓口:専門家への相談ルート確保
よくある誤解と注意点
誤解1:「商用利用でなければ大丈夫」
現実:個人利用でも権利侵害は成立します。私的使用の範囲を正しく理解することが重要です。
誤解2:「出典を明記すれば使える」
現実:出典表記は最低限のマナーですが、これだけでは権利侵害は回避できません。
誤解3:「古い作品は自由に使える」
現実:保護期間内の作品は古くても保護されています。保護期間の確認が必要です。
誤解4:「見つからなければ問題ない」
現実:デジタル技術の発達により、侵害行為の発見は容易になっています。リスクを過小評価すべきではありません。
侵害してしまった場合の対処法
もし著作権侵害をしてしまった、または侵害の疑いを指摘された場合は:
1. 速やかな対応
- 侵害行為の即座停止
- 正当化根拠となる証拠の保全
- 弁護士等の専門家への相談
2. 権利者との交渉
- 誠実な対応
- 損害の程度確認
- 和解条件の検討
3. 再発防止策
- 侵害原因の分析
- 社内規程の見直し
- 従業員教育の強化
まとめ
著作権侵害の法的責任は、想像以上に重いものです。民事上の損害賠償だけでなく、刑事罰の対象にもなり得ます。特に企業にとっては、高額な罰金や社会的信用の失墜など、経営に深刻な影響を与える可能性があります。
しかし、適切な知識を持って正しく権利処理を行えば、これらのリスクは十分に回避できます。「知らなかった」では済まされない時代だからこそ、事前の対策と正しい理解が何より重要なのです。
次回の最終回では、実際にトラブルが起きた場合の対処法や相談窓口について詳しく解説します。著作権を守りながら、創作活動を楽しく続けるためのヒントをお伝えしますので、ぜひお楽しみに。
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