Concord Music Group, Inc. v. Anthropic PBC

Concord Music Group, Inc. v. Anthropic PBC

Case Metadata

Basic Information

1. Case Name: Concord Music Group, Inc., et al. v. Anthropic PBC

2. Court: United States District Court for the Northern District of California (originally filed in the United States District Court for the Middle District of Tennessee)

3. Filing Date: October 18, 2023

4. Judgment Date: Case ongoing; significant rulings on March 25, 2025 (preliminary injunction denied) and March 26, 2025 (motion to dismiss granted with leave to amend)

5. Case Number:
– Original: 3:23-cv-01092 (M.D. Tenn.)
– Transferred: 5:24-cv-03811 (N.D. Cal.)

6. Current Status: Active litigation (as of October 2025); defendant’s motion to dismiss granted with leave to amend; preliminary injunction denied; plaintiffs permitted to file amended complaint

Parties

7. Plaintiff(s):
Concord Music Group, Inc. – Major music publishing company
Universal Music Corp. – Music publishing entity
Songs of Universal, Inc. – Music publishing entity
ABKCO Music, Inc. – Music publishing company (catalog includes The Rolling Stones)
Capitol CMG, Inc. – Christian music publishing entity
Polygram Publishing, Inc. – Music publishing entity
Universal Music – MGB NA LLC – Music publishing entity
Universal Music – Z Tunes LLC – Music publishing entity

Collectively representing copyrights to approximately 500 musical compositions by major artists including Katy Perry, The Rolling Stones, Beyoncé, and others.

8. Defendant(s):
Anthropic PBC – Delaware public benefit corporation headquartered in San Francisco, California; developer of Claude AI chatbot and large language model technology

9. Key Law Firms:

For Plaintiffs:
– Jonathan Z. King (pro hac vice)
– Jennifer L. Pariser (pro hac vice)

For Defendant:
Quinn Emanuel Urquhart & Sullivan, LLP
– Hope D. Skibitsky
– Stefan Berthelsen
– Andrew Gass (pro hac vice)
– Allison Stillman (pro hac vice)
Local Counsel:
– Aubrey B. Harwell III
– Nathan C. Sanders
– Olivia Rose Arboneaux

10. Expert Witnesses: Not disclosed in available documents as of current record

Legal Framework

11. Case Type: AI copyright infringement litigation involving machine learning training data and generative AI outputs; music industry intellectual property dispute

12. Primary Legal Claims:
– Direct Copyright Infringement (17 U.S.C. § 501)
– Contributory Copyright Infringement
– Vicarious Copyright Infringement
– Removal/Alteration of Copyright Management Information (17 U.S.C. § 1202)

13. Secondary Claims: Claims based on three-stage infringement theory: (1) unauthorized copying during data ingestion; (2) reproduction during model fine-tuning; (3) generation of infringing outputs

14. Monetary Relief: Statutory damages sought up to $150,000 per copyrighted work (approximately 500 works), potentially exceeding $75 million; actual damages and attorneys’ fees also sought

Technical Elements

15. AI/Technology Involved:
Claude AI – Large language model chatbot developed by Anthropic
Training data corpus – Billions or trillions of words scraped from internet sources
Fine-tuning processes – Machine learning model training and optimization
Guardrails – Technical safeguards implemented to prevent copyright-infringing outputs (stipulated January 2, 2025)

16. Industry Sectors:
– Music publishing and licensing
– Artificial intelligence and machine learning
– Digital content creation
– Entertainment technology
– Lyric licensing services

17. Data Types:
– Copyrighted song lyrics (textual content)
– Internet-scraped text data used for training
– Copyright management information (CMI)
– Training corpus data (composition and sources undisclosed by defendant)

Database Navigation

18. Keywords/Tags:
AI copyright infringement, generative AI, large language models, music publishing, training data, fair use, transformative use, intermediate copying, Claude AI, Anthropic, statutory damages, contributory infringement, vicarious infringement, CMI removal, output infringement, AI licensing, guardrails, preliminary injunction

19. Related Cases:
– Authors Guild v. Google, Inc., 804 F.3d 202 (2d Cir. 2015) – fair use precedent for intermediate copying
– Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. ROSS Intelligence Inc., No. 1:20-cv-00613 (D. Del.) – AI training data copyright case
– The New York Times Co. v. OpenAI, Inc., No. 1:23-cv-11195 (S.D.N.Y.) – similar AI copyright infringement claims
– Tremblay v. OpenAI, Inc., No. 3:23-cv-03223 (N.D. Cal.) – authors’ copyright claims against AI company
– Andersen v. Stability AI Ltd., No. 3:23-cv-00201 (N.D. Cal.) – visual artists’ AI copyright claims
– Silverman v. OpenAI, Inc., No. 3:23-cv-03416 (N.D. Cal.) – authors’ AI copyright lawsuit

詳細分析 (Detailed Analysis)

事件の概要 (Case Overview)

背景と争点 (Background and Issues)

事実関係:

本件は、大手音楽出版社8社が人工知能開発企業Anthropic PBCに対して提起した著作権侵害訴訟である。原告らは、約500曲の著作権で保護された楽曲の歌詞について著作権を保有しており、これにはKaty Perry、The Rolling Stones、Beyoncéなどの著名アーティストの楽曲が含まれる。

訴訟の核心は、AnthropicがClaude AIという大規模言語モデルを開発する過程で、原告らの許諾を得ることなく、インターネットから大量のテキストデータ(数十億から数兆の単語)をスクレイピングし、その中に含まれる原告らの著作権で保護された歌詞を学習データとして使用したという主張にある。さらに原告らは、Claudeが質問に応答する際に、著作権で保護された歌詞の全部または実質的部分を逐語的または近似的に出力すると主張している。

本訴訟は2023年10月18日にテネシー州中部地区連邦地方裁判所に提起され、その後カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に移送された。担当判事はEumi K. Lee判事である。

中心的争点:

1. 学習データとしての使用は著作権侵害に該当するか: AIモデルの学習目的で著作権で保護された資料を無許諾で複製することが、米国著作権法上の侵害を構成するか。

2. フェアユース抗弁の適用可能性: 被告の行為が17 U.S.C. § 107に基づくフェアユース(公正使用)として認められるか。特に、Authors Guild v. Google判例で確立された「中間的複製」(intermediate copying)の法理がAI学習に適用されるか。

3. AI出力物の著作権侵害性: Claudeが生成する出力物が著作権侵害に該当するか、また該当する場合、その責任主体は誰か(開発者か利用者か)。

4. 二次的侵害責任: 第三者(Claude利用者)による侵害に対して、Anthropicが寄与侵害責任(contributory infringement)または代位侵害責任(vicarious infringement)を負うか。

5. 著作権管理情報の除去: Anthropicが17 U.S.C. § 1202に違反して著作権管理情報を故意に除去または改変したか。

原告の主張:

原告らは、Anthropicによる著作権侵害が3段階で発生したと主張する:

第1段階(データ収集): Anthropicがインターネットから大量のテキストデータをスクレイピングした際、著作権で保護された歌詞を無許諾で複製した。

第2段階(モデル訓練): スクレイピングしたデータを使用してClaudeモデルを訓練・最適化する過程で、さらなる複製が行われた。

第3段階(出力生成): Claudeが利用者の質問に応答する際、著作権で保護された歌詞の全部または実質的部分を逐語的または近似的に出力する。

原告らは、Anthropicがこれらの歌詞の使用について一切のライセンスを取得しておらず、既存の歌詞ライセンスサービスと直接競合する形でサービスを提供していると主張している。また、Anthropicの行為により、新興のAI学習用ライセンス市場における原告らの権利が侵害されているとも主張している。

原告らは、法定損害賠償として1作品あたり最大15万ドル(約500作品で合計7,500万ドル超の可能性)、実損害賠償、差止命令、弁護士費用を求めている。

被告の主張:

Anthropicは、主に以下の抗弁を主張している:

1. フェアユース: 学習データとしての使用は変形的(transformative)であり、Google Booksスキャン事件で確立された「中間的複製」の法理が適用される。AIモデルは言語パターンを認識するために学習するのであり、歌詞そのものを直接複製・配布するためではない。

2. 第三者侵害の不存在: 寄与侵害および代位侵害の主張については、実際に第三者(Claude利用者)が侵害行為を行ったという具体的証拠が存在しない。原告の主張は推測的である。

3. ガードレールの実装: 2025年1月の和解規定により、Anthropicは著作権侵害的な出力を防止する技術的保護措置(ガードレール)を維持することに合意した。

4. 著作権管理情報の除去に関する反論: 意図的な除去は行っておらず、一部の出力には帰属情報が含まれている場合もある。

AI/技術要素:

本件の中心となるのは、Anthropicが開発したClaude AIである。Claudeは大規模言語モデル(Large Language Model, LLM)であり、膨大なテキストデータを学習して自然言語処理タスクを実行する。

学習プロセス:
– インターネットから「数十億または数兆の単語」に及ぶテキストデータを収集
– このデータには、Webページ、書籍、記事、その他公開されているテキスト(歌詞を含む)が含まれる
– ニューラルネットワークモデルがこのデータから言語パターン、文法、意味関係を学習
– ファインチューニング(fine-tuning)により、特定のタスクやユーザーインタラクションに最適化

出力メカニズム:
– ユーザーの質問やプロンプトに基づいて、学習したパターンから応答を生成
– 原告の主張によれば、特定のプロンプト(例:「[曲名]の歌詞を書いて」)に対して、著作権で保護された歌詞の逐語的または近似的なコピーを出力

ガードレール:
– 2025年1月の和解規定により実装された技術的保護措置
– 著作権侵害の可能性がある出力を検知・防止するフィルター
– 現在および将来のすべてのAIモデル・製品に適用
– 具体的な技術仕様は非公開

手続きの経過 (Procedural History)

2023年10月18日 – 訴訟提起
原告らがテネシー州中部地区連邦地方裁判所に訴状を提出(事件番号3:23-cv-01092)。陪審裁判を要求。

2024年 – 管轄移送
事件がカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に移送(事件番号5:24-cv-03811)。Anthropicの本社所在地がカリフォルニア州サンフランシスコであることが考慮された可能性がある。

2024年8月1日 – 予備的差止命令の申立て
原告らが予備的差止命令(preliminary injunction)の申立てを更新。

2024年 – 却下申立て
Anthropicが訴えの却下を求める申立て(Motion to Dismiss)を提出。

2024年11月25日 – 予備的差止命令に関する審理
Lee判事が予備的差止命令の申立てに関して長時間の審理(marathon hearing)を実施。

2025年1月2日 – ガードレールに関する和解規定
Lee判事が当事者間の和解規定および命令(Stipulation and Order)を承認。Anthropicは、著作権侵害的な出力を防止する既存の「ガードレール」を維持し、現在および将来のすべてのAIモデル・製品に適用することに合意。ただし、未解決の争点に関する当事者の権利は留保された。

2025年2月11日 – 補足法源の提出申立て
ECF No. 295として、補足的法源(Thomson Reuters v. ROSS Intelligence判決)の提出許可を求める申立てが提出される。

2025年3月25日 – 予備的差止命令の却下
Lee判事が予備的差止命令の申立てを却下。判事は、申し立てられた差止命令が過度に広範かつ定義が不明瞭であり、数十万の作品を対象とする可能性があると指摘。また、原告らが回復不能な損害を立証できなかったとも判断。1月の和解規定により出力に関する懸念は対処されているとした。

2025年3月26日 – 却下申立ての認容(修正許可付き)
Lee判事が、寄与侵害、代位侵害、著作権管理情報の除去に関する請求について、Anthropicの却下申立てを認容。ただし、原告に対して30日以内に修正訴状(amended complaint)を提出する機会を付与。

判事は、第三者侵害の具体的証拠が不十分であり、利用者が歌詞を生成「する可能性がある」という主張は不十分であると判断。また、著作権管理情報の除去に関する主張も、意図的な除去や侵害誘引の認識を十分に主張していないとした。

2025年10月3日
現在把握されている最終の訴訟記録の日付。

重要な手続き上の決定:

1. 管轄移送: テネシー州からカリフォルニア州への移送は、被告の主たる営業地に基づく実務的判断と考えられる。

2. 予備的差止命令の却下: 裁判所は、原告が求めた差止命令が過度に広範で定義が不明瞭であると判断。「数十万の作品」を対象とする可能性があり、遵守メカニズムが不明確であること、被告に過度の負担を課すことを懸念。

3. 一部請求の却下(修正許可付き): 寄与侵害、代位侵害、CMI除去の各請求について却下を認めたが、修正訴状の提出を許可。これは、原告に主張の補強機会を与えつつ、現時点では主張が不十分であるという裁判所の判断を示す。

証拠開示:

詳細な証拠開示(discovery)の状況は公開文書からは不明であるが、以下が予想される:
– Anthropicの学習データソースおよびデータ収集方法に関する情報
– Claudeモデルのアーキテクチャおよび訓練プロセス
– ガードレールの技術的仕様
– 出力サンプルおよびテスト結果
– 内部文書およびコミュニケーション
– 財務記録(損害賠償算定のため)

専門家証言:

専門家証人に関する具体的情報は公開文書には記載されていないが、通常このタイプの訴訟では以下の専門家が関与すると予想される:

原告側:
– 著作権専門家(侵害分析)
– 音楽業界専門家(市場への影響、ライセンシング慣行)
– AI/機械学習専門家(学習プロセス、出力メカニズム)
– 損害賠償算定専門家

被告側:
– AI/機械学習専門家(変形的使用、技術的動作)
– 著作権専門家(フェアユース分析)
– 経済学専門家(市場への影響、損害の不存在)

判決の概要 (Judgment Summary)

本件では本案判決には至っておらず、2025年3月に重要な中間判断が2件下されている。

裁判所の判断 (Court’s Decision)

予備的差止命令の却下(2025年3月25日)

Lee判事は、原告らの予備的差止命令申立てを全面的に却下した。

主要な判断内容:

1. 回復不能な損害の不存在

裁判所は、原告らが回復不能な損害(irreparable harm)を立証できなかったと判断した。具体的には:

– ライセンス契約の喪失や不利な条件での契約締結の証拠が提出されなかった
– AI学習市場への影響に関する主張は推測的(speculative)である
– 評判への損害に関する懸念は、2025年1月の和解規定(ガードレール)により対処されている

裁判所は、原告らが「新興のAI学習市場」の存在を主張したことを認めつつも、Anthropicの行為によりこの市場で実際に損害が発生したという具体的証拠を欠いていると判断した。

2. 過度に広範かつ定義が不明瞭

裁判所は、原告らが求めた差止命令について、「詳細が捉えどころなく、定義が不十分なまま」であり、「曖昧で扱いにくい」と評した。

具体的な問題点:
– 数十万の楽曲を対象とする可能性があるにもかかわらず、明確な遵守メカニズムがない
– 被告にとって実行可能性が不明確
– 過度の負担を課す可能性

3. 既存市場の認識

重要な点として、裁判所は「AI学習のための新興市場」の存在を認めた。これは、著作権者がAI学習目的でライセンスを付与する市場が形成されつつあることを司法が認識したことを意味する。

裁判所は、ライセンスの取得を怠ったことがこのライセンス市場に影響を与える可能性があることを示唆したが、現時点では具体的損害の証明が不十分であるとした。

却下申立ての認容(2025年3月26日)

Lee判事は、3つの請求原因について却下を認めたが、直接侵害の請求は維持され、修正訴状の提出が許可された。

主要な判断内容:

1. 寄与侵害請求の却下

裁判所は、寄与侵害(contributory infringement)の成立には、第三者による直接侵害の存在が前提となると指摘した。

却下の根拠:
– 第三者(Claude利用者)が実際に著作権侵害を行ったという具体的証拠がない
– 利用者が著作権で保護された歌詞を生成「する可能性がある」という主張は不十分
– 結論的な主張(conclusory allegations)のみでは要件を満たさない
– Anthropicが特定の侵害行為についての知識を有していたという主張がない

寄与侵害の法的要件:
– 第三者による直接侵害の存在
– 被告がその侵害についての知識を有すること
– 被告が侵害行為に実質的な寄与をすること

裁判所は、原告が第一要件(第三者による直接侵害)を十分に主張できていないと判断した。

2. 代位侵害請求の却下

代位侵害(vicarious infringement)も、第三者による直接侵害の存在を前提とする。

却下の根拠:
– 寄与侵害と同様、基礎となる第三者の直接侵害が立証されていない
– 原告は、Anthropicが侵害行為から財政的利益を得ていると主張したが、そもそも侵害行為自体が立証されていない
– 直接侵害なしには代位責任を負わせることはできない

代位侵害の法的要件:
– 第三者による直接侵害の存在
– 被告が侵害行為から直接的な財政的利益を得ること
– 被告が侵害行為を管理する権利と能力を有すること

3. 著作権管理情報除去請求の却下(17 U.S.C. § 1202)

裁判所は、17 U.S.C. § 1202(著作権管理情報の保護)違反の主張について却下を認めた。

却下の根拠:
– 著作権管理情報(CMI)の意図的な除去を十分に主張していない
– Anthropicが除去により侵害が誘引されることを知っていたという主張が不十分
– 原告自身が、一部の出力には帰属情報が含まれていることを認めている(矛盾)
– 主張が結論的である

CMI除去の法的要件:
– 著作権管理情報の存在
– 意図的な除去または改変
– 侵害を誘引、可能化、促進、または隠蔽することを知りつつ、または知るべき合理的根拠があること

修正訴状提出の許可:

裁判所は、原告に対して30日以内に修正訴状を提出する機会を付与した。ただし、以下の制限がある:
– 裁判所の許可なしに新たな請求原因を追加することはできない
– 裁判所が指摘した欠陥に対処する必要がある

勝敗の結果:

現時点(2025年10月)では本案判決に至っていないため、最終的な勝敗は決していない。しかし、中間判断では:

Anthropic(被告)に有利な判断:
– 予備的差止命令申立ての却下
– 3つの請求原因(寄与侵害、代位侵害、CMI除去)の却下

原告に残された権利:
– 直接侵害請求は維持
– 修正訴状の提出機会
– フェアユース抗弁に関する本案審理は未実施

命令された救済措置:

– 予備的差止命令は発令されず
– 2025年1月の和解規定により、Anthropicは自主的にガードレールを維持することに合意(強制されたものではなく、当事者間の合意)

重要な法的判断:

1. AI学習ライセンス市場の司法的承認: 裁判所が「AI学習のための新興市場」の存在を明示的に認めたことは、今後のフェアユース分析において重要な意味を持つ可能性がある。市場の存在は、フェアユースの第4要素(市場への影響)の分析において原告に有利に働く可能性がある。

2. AI侵害訴訟における立証基準: 裁判所は、AI技術に関する著作権侵害訴訟において、推測的な主張や理論的可能性だけでは不十分であり、具体的な侵害の証拠が必要であることを明確にした。

3. 予備的救済の困難性: AI著作権訴訟において予備的差止命令を取得することは極めて困難であり、特に回復不能な損害の具体的立証が要求される。

4. 技術的保護措置の役割: ガードレールのような技術的保護措置が、出力に関する懸念を緩和する手段として裁判所に認識されている。

反対意見・補足意見:

地方裁判所の決定であるため、反対意見や補足意見は存在しない。

法的推論の分析 (Analysis of Legal Reasoning)

適用された法理:

1. 予備的差止命令の要件(伝統的な4要素テスト)

米国の裁判所は、予備的差止命令を発令するために、申立人が以下を立証することを要求する:
– 本案における勝訴の可能性(likelihood of success on the merits)
– 回復不能な損害を被る可能性(likelihood of irreparable harm)
– 衡量において申立人の不利益が被申立人の不利益を上回ること(balance of hardships tips in favor of the plaintiff)
– 公共の利益が差止命令の発令を支持すること(public interest favors an injunction)

本件でLee判事は、特に回復不能な損害の要素について原告が立証できなかったと判断した。裁判所は、原告の主張する損害(ライセンス市場への影響)が推測的であり、具体的な証拠に裏付けられていないと指摘した。

2. 訴えの却下基準(Rule 12(b)(6))

連邦民事訴訟規則12(b)(6)に基づく却下申立てでは、裁判所は訴状の記載を真実と仮定し、すべての合理的推論を原告に有利に解釈した上で、原告が救済を受ける権利を主張できているかを判断する。

裁判所は、寄与侵害および代位侵害について、たとえ訴状の記載をすべて真実と仮定しても、法律上の請求として成立しないと判断した。これは、第三者による直接侵害という前提要件が十分に主張されていないためである。

3. 寄与侵害および代位侵害の法理

寄与侵害は、以下の要件を満たす場合に成立する:
– 他者による直接侵害の存在
– 被告がその侵害を知っていること
– 被告が侵害行為に実質的な寄与をしたこと

代位侵害は、以下の要件を満たす場合に成立する:
– 他者による直接侵害の存在
– 被告が侵害行為から直接的な財政的利益を得ること
– 被告が侵害行為を管理する権利と能力を有すること

いずれの請求も、第三者(この場合Claude利用者)による直接侵害の存在が前提となる。裁判所は、原告が利用者による実際の侵害を十分に主張していないと判断した。

4. 著作権管理情報保護法(17 U.S.C. § 1202)

この法律は、著作権管理情報(CMI)を意図的に除去または改変し、そうすることで侵害を誘引、可能化、促進、または隠蔽することを知りつつ、または知るべき合理的根拠があって行為した者を禁止する。

裁判所は、原告が「意図性」および「認識」の要件を十分に主張していないと判断した。特に、一部の出力には帰属情報が含まれていることを原告自身が認めている点が、意図的な除去という主張と矛盾すると指摘された。

事実認定:

予備的差止命令および却下申立ての段階では、詳細な事実認定は行われていない。ただし、裁判所は以下の事実を認識している:

1. AI学習市場の存在: 裁判所は、著作権者がAI学習目的でライセンスを付与する「新興市場」が存在することを認めた。

2. ガードレールの実装: 2025年1月の和解規定により、Anthropicが著作権侵害的な出力を防止する技術的措置を実装していることを認めた。

3. 一部出力における帰属情報: 原告の主張においても、Claude出力の一部には帰属情報が含まれていることが認められている。

技術的理解:

Lee判事の決定からは、裁判所がAI技術の基本的なメカニズムを理解していることが示されている:

1. 学習プロセス: 大量のテキストデータから言語パターンを学習するプロセスを理解している。

2. 出力メカニズム: 学習したパターンに基づいて応答を生成するメカニズムを理解している。

3. ガードレール: 技術的保護措置により特定タイプの出力を防止できることを理解している。

ただし、裁判所はフェアユース抗弁の本案判断を明示的に留保しており、AI学習における「変形的使用」や「中間的複製」の法理の適用については判断していない。これは、本件の最も重要な争点が未解決であることを意味する。

裁判所は、フェアユースの判断には事実問題の解明が必要であり、却下申立ての段階では適切でないと考えた可能性がある。ただし、「AI学習市場の存在」を認めたことは、フェアユースの第4要素(市場への影響)の分析において、被告に不利に働く可能性を示唆している。

裁判所の慎重なアプローチ:

Lee判事の決定は、新興技術に関する複雑な法的問題に対して慎重なアプローチを取っている:

1. 段階的判断: 予備的差止命令や一部請求の却下という手続的判断にとどめ、本案の核心(フェアユース)には踏み込まない

2. 修正機会の付与: 却下を認めつつも修正訴状の提出を許可し、原告に主張の補強機会を与える

3. 技術的保護措置の奨励: ガードレールに関する和解規定を承認し、当事者間の自主的解決を促進

4. 新興市場の認識: AI学習ライセンス市場の存在を認め、将来の法的枠組み構築の基礎を提供

法的意義 (Legal Significance)

先例価値 (Precedential Value)

将来への影響:

本件は、AI著作権侵害訴訟における重要な先例となる可能性がある。ただし、現時点では地方裁判所レベルの中間判断にとどまり、拘束力のある先例としての地位は限定的である。

1. AI著作権訴訟における立証基準の明確化

裁判所は、AI技術に関する著作権侵害訴訟において、以下の立証基準を明確にした:

推測的主張の不十分性: 理論的可能性や「〜かもしれない」という主張だけでは不十分
具体的証拠の必要性: 実際の侵害行為、具体的な損害、因果関係の立証が必要
第三者侵害の立証: 寄与侵害・代位侵害を主張する場合、実際に第三者が侵害を行ったことを具体的に示す必要がある

この基準は、将来のAI訴訟において原告が満たすべきハードルを高く設定したといえる。単に「AIが著作物を学習した」「侵害的出力が可能である」というだけでは不十分であり、実際の侵害とその影響を具体的に立証する必要がある。

2. 予備的差止命令取得の困難性

本判決は、AI著作権訴訟において予備的差止命令を取得することが極めて困難であることを示した:

– 回復不能な損害の具体的立証が必要(推測的な市場への影響では不十分)
– 差止命令の範囲と内容が明確かつ実行可能でなければならない
– 技術的保護措置(ガードレール)が出力に関する懸念を緩和する手段として認められる

3. AI学習ライセンス市場の司法的承認

最も重要な点として、裁判所が「AI学習のための新興市場」の存在を明示的に認めたことは、将来のフェアユース分析に重大な影響を与える可能性がある。

フェアユースの第4要素は「著作権で保護された著作物の潜在的市場または価値への影響」を考慮する。市場が存在する場合、無許諾使用はその市場に悪影響を与えるとみなされやすく、フェアユース抗弁が認められにくくなる。

ただし、裁判所はフェアユースの本案判断を留保しており、この市場の存在がフェアユース分析においてどの程度の比重を持つかは未解決である。

法理論の発展:

本件は、AI法理論の発展において以下の貢献をする可能性がある:

1. 「中間的複製」法理のAI学習への適用

被告は、Authors Guild v. Google事件(第2巡回区控訴裁判所、2015年)で確立された「中間的複製」の法理を援用している。この法理では、最終的な目的が変形的であれば、その過程における完全な複製もフェアユースとして認められる場合がある。

Google Books事件では、検索可能なデジタルアーカイブを作成するための書籍スキャンが、変形的使用(本の内容を読むためではなく、検索・分析するため)としてフェアユースと認められた。

本件でAnthropicは、AI学習も同様に変形的であると主張している:
– 歌詞を読む・再生するためではなく、言語パターンを認識するため
– 最終目的は新しいテキスト生成能力の開発
– 学習過程での複製は「中間的」であり、最終製品(AIモデル)には著作物そのものは含まれない

ただし、裁判所はこの主張について本案判断を留保している。今後の審理で、この法理がAI学習に適用されるかが明らかになる。

2. 出力侵害と学習侵害の区別

本件の審理を通じて、以下の概念的区別が明確になりつつある:

学習段階での複製: データ収集・モデル訓練における複製
出力段階での複製: AIが生成する出力物における複製

これらは法的に異なる問題を提起する:
– 学習段階: フェアユース抗弁の適用可能性が中心
– 出力段階: 直接侵害の有無、責任主体(開発者vs利用者)が中心

本件では、ガードレールにより出力侵害が技術的に対処される一方、学習侵害の合法性は依然として争われている。

3. AI開発における二次的責任の範囲

本件の却下判断は、AI開発企業の二次的責任(寄与侵害・代位侵害)の範囲を限定する方向性を示している:

– 利用者が侵害「する可能性がある」だけでは不十分
– 実際の侵害行為の証拠が必要
– 一般的な用途の技術を提供しただけでは責任を負わない(ソニー・ベータマックス原則の延長)

ただし、修正訴状で原告が具体的な侵害事例を示せば、この判断は覆る可能性がある。

解釈の明確化:

本件は、既存著作権法のAI分野への適用に関して以下の点を明確化した:

1. 著作権管理情報(CMI)の除去

17 U.S.C. § 1202の「意図的な除去」要件は、AI学習の文脈において高いハードルとなる:
– 単に出力に帰属情報が欠けているだけでは不十分
– 意図的な除去行為と侵害誘引の認識を立証する必要がある
– 技術的プロセスの結果として情報が失われた場合、意図性の立証が困難

2. 予備的救済の要件

AI技術訴訟における予備的差止命令は、以下の特別な課題に直面する:
– 技術的複雑性により、差止命令の範囲を明確に定義することが困難
– 対象作品が膨大な場合、実行可能性が問題となる
– 技術的保護措置により、差止命令の必要性が減少する可能性

規制・実務への影響 (Regulatory and Practical Impact)

AIガバナンス:

本件は、AI開発・運用におけるガバナンス要件について重要な示唆を提供する:

1. 技術的保護措置(ガードレール)の重要性

2025年1月の和解規定により、Anthropicはガードレールを維持することに合意した。これは、AI業界において以下の実務を促進する可能性がある:

出力フィルタリング: 著作権侵害的な出力を検知・防止するシステムの実装
帰属情報の付与: 可能な場合、出力に適切な帰属情報を含める
利用者教育: 適切な使用方法に関するガイドラインの提供
継続的監視: 新しい侵害パターンの検知と対応

ガードレールの実装は、法的責任を軽減する手段として認識される可能性があるが、学習データの著作権問題は別途解決する必要がある。

2. 学習データの来歴管理

本件は、AI開発企業に対して学習データの来歴(provenance)を追跡・文書化するインセンティブを提供する:

データソースの記録: どのソースからどのようなデータを取得したか
ライセンス状況の確認: 取得したデータに関するライセンス権の確認
著作権リスク評価: 潜在的な著作権侵害リスクの評価
除外リスト: 著作権リスクの高いデータの除外

ただし、Anthropicは学習データの詳細を公開しておらず、業界全体として透明性を高めるかは不明である。

3. オプトアウト・メカニズム

本件を受けて、一部のAI企業は著作権者がオプトアウトできるメカニズムの提供を検討する可能性がある:

robots.txtの尊重: Web クローリングにおける従来の標準の尊重
専用オプトアウトプロトコル: AI学習専用のオプトアウト手段
事前許諾モデル: 一定のコンテンツについては事前にライセンスを取得

コンプライアンス:

AI開発企業および著作権者は、本件を踏まえて以下の対応を検討すべきである:

AI開発企業:

1. ライセンス戦略の検討

本判決が「AI学習市場」の存在を認めたことを踏まえ、以下を検討すべき:

ライセンス取得: 高リスクコンテンツ(音楽、書籍、ニュース記事など)について、事前にライセンスを取得
ライセンス交渉: 主要な著作権者団体との包括的ライセンス交渉
コスト算定: ライセンス費用と訴訟リスクのバランス評価

実際、OpenAI、Google、Anthropicなどは、一部のコンテンツプロバイダーとライセンス契約を締結し始めている。

2. 技術的保護措置の実装

– 著作権侵害的な出力を防止するフィルタリング技術
– 帰属情報を自動的に付与するシステム
– 利用者による不適切な使用を検知・防止する仕組み

3. 訴訟防御の準備

– フェアユース抗弁の理論的根拠の整備
– 技術的動作の詳細な文書化
– 市場への影響に関する経済学的分析
– 専門家証人の確保

4. 透明性の向上

– 学習データソースに関する一般的な情報の公開(具体的リストは困難でも、方針は公開可能)
– ガードレールの存在と機能に関する情報提供
– 著作権に関する方針の明確化

著作権者:

1. AI学習ライセンスの商業化

裁判所がAI学習市場の存在を認めたことを活用し、新しい収益源を開拓:

個別ライセンス: AI企業との直接交渉
集団ライセンシング: 著作権管理団体を通じた包括的ライセンス
料金設定: 適切なライセンス料の設定

2. 侵害監視

– AI出力の監視(著作物が無許諾で出力されていないか)
– 侵害事例の記録・証拠保全
– 技術的手段(デジタル指紋、透かしなど)の活用

3. オプトアウトの表明

– robots.txtなど既存の標準によるオプトアウトの明確化
– AI企業が提供するオプトアウトメカニズムの利用
– 公開の場での明確なオプトアウトの意思表示

業界への影響:

本件は、複数の産業分野に影響を与える:

1. 音楽産業

新しい権利クリアランス市場: AI学習用ライセンスという新しい権利クリアランスの領域が生まれる可能性
既存ライセンスモデルの拡張: ASCAP、BMI、SESACなどの著作権管理団体が、AI学習用ライセンスを扱うようになる可能性
競合関係の変化: AI生成コンテンツが人間創作の音楽と競合する可能性

2. AI産業

開発コストの増加: ライセンス費用、訴訟費用、技術的保護措置の実装コストが増加
イノベーションへの影響: 著作権リスクがAI開発のペースや方向性に影響
市場の分化: ライセンスを取得する「クリーン」なAIと、リスクを取る「アグレッシブ」なAIの分化

3. 出版・メディア産業

– 音楽以外の分野(書籍、ニュース記事、学術論文など)でも同様の訴訟・交渉が進行
– The New York Times v. OpenAI、Authors Guild訴訟など、並行する訴訟の動向が注目される

4. 法律サービス産業

– AI著作権訴訟の専門性を持つ法律事務所への需要増加
– 新しい法的枠組みの構築に向けた政策提言活動
– ライセンス交渉支援サービスの拡大

リスク管理:

AI開発企業が類似リスクを回避するために考慮すべき事項:

1. 学習データの選別

パブリックドメイン優先: 著作権が消滅した作品を優先的に使用
許諾済みデータ: オープンライセンス(CC0、CC-BYなど)のデータを優先
ライセンス取得: 商業的に重要なデータについてはライセンスを取得
高リスクデータの除外: 訴訟リスクの高い分野(音楽歌詞、最近の書籍、ニュース記事)の慎重な取り扱い

2. 出力管理

フィルタリング: 著作権侵害的な出力を検知・ブロックするシステム
サンプリング・テスト: 定期的に出力をサンプリングし、侵害の有無を確認
利用規約: 利用者に対して著作権侵害的な使用を禁止する規約の明示
報告メカニズム: 著作権者が侵害を報告できる仕組みの提供

3. 法的ポジションの構築

フェアユース分析: 自社の使用がフェアユースに該当する理由の明確化
変形性の強調: 使用が変形的である点を強調(単なる複製ではなく、新しい用途を創出)
市場への影響の最小化: 著作権者の市場を代替するのではなく、補完することを示す
公共の利益: AI技術が社会にもたらす利益を強調

4. ステークホルダーとの対話

著作権者団体との協議: 訴訟前に業界団体と対話し、相互理解を深める
ライセンス枠組みの共同構築: 業界全体でライセンスの標準を構築
透明性の向上: 技術的プロセスや方針について、可能な範囲で情報を開示
業界自主規制: AI業界内での自主的なベストプラクティスの確立

5. 保険・財務対策

訴訟保険: 著作権侵害訴訟に対する保険の検討
準備金の確保: 潜在的な和解金・損害賠償金に備えた財務準備
リスク開示: 投資家・株主に対する著作権リスクの適切な開示

比較法的観点 (Comparative Law Perspective)

日本法との比較:

日本の著作権法制とAI技術に関する法的枠組みは、米国と重要な相違点がある:

1. AI学習に関する権利制限規定(著作権法30条の4)

日本は2018年の著作権法改正により、AI学習のための著作物利用について明確な権利制限規定を導入した:

著作権法30条の4(平成30年改正):
「著作物は、電子計算機による情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。以下この条において同じ。)を行うことを目的とする場合には、必要と認められる限度において、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。ただし、情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物については、この限りでない。」

この規定により、日本では以下が可能となる:
AI学習目的の複製: 情報解析(AI学習を含む)の目的であれば、著作物を複製できる
商業利用も可能: 非営利に限定されず、営利目的の研究開発も対象
広範な適用: 多様なAI技術(画像認識、自然言語処理など)に適用

例外:
– 著作権者の利益を不当に害する場合は適用されない(著作権法30条の4ただし書、47条の5第2項)
– 情報解析用に作成されたデータベースは対象外

米国との比較:

| 項目 | 日本 | 米国 |
|——|——|——|
| 法的根拠 | 明文の権利制限規定(30条の4) | フェアユース(包括的抗弁、判例法) |
| 予測可能性 | 高い(明文規定) | 低い(ケースバイケース) |
| 商業利用 | 明示的に許容 | 4要素テストで判断 |
| 出力段階 | 別途判断が必要 | 同じくフェアユース判断 |

実務への影響:

Concord v. Anthropic事件が日本で発生した場合、学習段階での複製については著作権法30条の4により適法と判断される可能性が高い。ただし、以下の点は依然として問題となりうる:

出力段階: AI出力が著作物の複製に該当する場合、30条の4では正当化されない
著作権者の利益侵害: 歌詞ライセンス市場を代替する場合、「著作権者の利益を不当に害する」として適用が否定される可能性
著作者人格権: 日本では著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)が米国より強く保護されており、別途問題となる可能性

2. フェアユース規定の不存在

日本の著作権法は、米国のような包括的なフェアユース規定を持たず、個別の権利制限規定(30条〜47条の8)を列挙する方式を採用している。

2018年改正では、柔軟な権利制限規定(47条の4、47条の5)が導入されたが、依然として米国のフェアユースほど包括的ではない。

影響:
– 日本では、AI学習については30条の4という明確な規定があるため、米国のような不確実性は少ない
– 一方、新しいタイプのAI利用については、既存の権利制限規定に該当しない可能性があり、柔軟性に欠ける

3. 著作者人格権の取り扱い

日本では著作者人格権(氏名表示権、公表権、同一性保持権)が米国より強く保護されており、譲渡不可能である(著作権法59条)。

AI出力が著作物と類似する場合、以下の問題が生じる可能性:
氏名表示権侵害: 著作者名が表示されない(著作権法19条)
同一性保持権侵害: 著作物が意図しない形で改変される(著作権法20条)

米国ではこれらの権利は著作権法で保護されていない(Visual Artists Rights Act of 1990により一部の視覚芸術作品のみ保護)。

4. 損害賠償制度の相違

米国:
法定損害賠償: 1著作物あたり750ドル〜30,000ドル(故意の場合は最大150,000ドル)(17 U.S.C. § 504(c))
実損害の立証不要: 法定損害賠償を選択すれば、実際の損害を立証する必要がない
懲罰的損害賠償: 故意・悪質な場合、高額な損害賠償

日本:
実損害主義: 原則として実際に発生した損害の賠償(民法709条)
推定規定: 著作権法114条により損害額の推定が可能だが、米国の法定損害賠償ほど高額にはならない
懲罰的損害賠償なし: 日本法では懲罰的損害賠償は認められない

影響:
– 米国では、大量の著作物について侵害が認められた場合、巨額の法定損害賠償(本件では潜在的に7,500万ドル超)のリスクがある
– 日本では、実際の損害(逸失利益など)を立証する必要があり、AI学習による損害の立証は困難な場合が多い
– したがって、同様の訴訟が日本で提起されても、米国ほどの金銭的リスクはない可能性

他国判例との関係:

AI著作権問題は国際的に注目されており、複数の国で訴訟や規制の動きがある:

1. 欧州連合(EU)

EU著作権指令(2019/790):
– テキスト・データマイニング(TDM)に関する権利制限規定(第3条、第4条)
– 第3条: 科学研究目的のTDM(広範な適用)
– 第4条: 一般的なTDM(ただし著作権者がオプトアウトした場合は適用されない)

特徴:
オプトアウト方式: 著作権者が明示的に拒否した場合、AI学習に使用できない
技術的手段の尊重: オプトアウトは機械読取可能な方式で行われるべき
商業利用: 第4条は商業利用も対象とするが、オプトアウトが可能

米国との比較:
– EUはオプトアウト方式を採用(著作権者の選択を重視)
– 米国はオプトアウト規定がなく、フェアユースで判断(使用者の判断に委ねられる面が大きい)

最近の動向:
AI法(AI Act): 2024年に施行されたEU AI法は、AI開発における透明性要件を課す
– 生成AIモデルは、学習に使用したデータの概要を公開する義務がある

2. 英国

2014年著作権法改正により、テキスト・データマイニングのための権利制限規定が導入されたが、当初は非商業的研究に限定されていた。

2022年改正案では、商業利用も含めた広範なTDM権利制限が提案されたが、著作権者団体の強い反対により、最終的には限定的な改正にとどまった。

現状:
– 非商業的研究目的のTDMは権利制限の対象
– 商業利用については依然として不確実性が高い

3. 中国

中国では、AI生成コンテンツに関する判例が蓄積されつつある:

北京互聯網法院(2019年): AI生成記事に著作権を認めた事例
深圳市南山区人民法院(2023年): Stable Diffusion生成画像の著作権を認めた事例

ただし、学習データの著作権については、明確な判例はまだ少ない。

グローバルな影響:

本件(Concord v. Anthropic)は、米国の訴訟であるが、グローバルな影響を持つ:

1. 多国籍AI企業への影響

Anthropicを含む主要なAI企業(OpenAI、Google、Meta、Microsoft)は多国籍企業であり、複数の法域で事業を展開している。

法域ごとの対応: 米国、EU、日本など、法域ごとに異なる著作権ルールに対応する必要
最も厳格な基準への統一: 実務上、最も厳格な法域の基準に全社的に合わせる可能性(compliance cost削減のため)
地域別モデル: 法域ごとに異なる学習データで訓練されたモデルを提供する可能性

2. 国際的なライセンス市場の形成

裁判所が「AI学習市場」の存在を認めたことは、国際的なライセンス市場の形成を促進する可能性:

国際的な著作権管理団体: 音楽(ASCAP、BMI、SESAC、JASRAC等)、書籍(CCC、JRRC等)の著作権管理団体が、AI学習用ライセンスを国際的に提供
相互認証: 各国の権利管理団体間での相互認証・ライセンス
標準化: ライセンス条件、料金体系の国際的標準化

3. 規制の収斂と乖離

AI著作権問題に対する各国のアプローチは、現在のところ統一されていない:

収斂の可能性:
– AI技術のグローバルな性質上、一定の調和が望ましい
– 国際的なフォーラム(WIPO、OECD等)での議論が進行中

乖離の可能性:
– 各国の著作権制度の基本的な違い(フェアユース vs 個別制限規定)
– 政策目標の違い(イノベーション促進 vs 著作権者保護)
– 産業構造の違い(AI産業が強い国 vs コンテンツ産業が強い国)

日本企業・法務担当者への示唆:

1. 米国事業へのリスク: 日本企業が米国でAIサービスを提供する場合、日本法(30条の4)では適法でも、米国でフェアユースと認められない可能性がある

2. グローバル戦略の必要性: 法域ごとに異なる著作権ルールに対応するグローバル戦略が必要

3. 日本法の優位性の活用: 日本の明確な権利制限規定(30条の4)は、AI開発における法的予測可能性を提供し、日本でのAI開発を促進する可能性

4. 出力段階のリスク: 日本法でも出力段階での著作権侵害リスクは残るため、ガードレール等の技術的対策は依然として重要

重要なポイント (Key Takeaways)

実務家への示唆:

1. AI著作権訴訟における立証の重要性

弁護士・企業法務担当者は、AI関連の著作権訴訟において、以下の点を認識すべき:

具体的証拠の必要性: 理論的可能性や推測だけでは不十分。実際の侵害行為、具体的な損害、因果関係を示す証拠が必要
第三者侵害の立証: 寄与侵害・代位侵害を主張する場合、実際に第三者が侵害を行った具体例を示す必要
市場への影響: 「AI学習市場」への影響を主張する場合、実際の取引機会の喪失や不利な条件での契約を示す証拠が必要
技術的理解: AI技術の動作メカニズムを正確に理解し、法的主張に反映させる必要

2. 予備的差止命令取得の困難性

AI著作権訴訟で予備的差止命令を求める場合:

明確な定義: 差止命令の範囲と内容を明確かつ実行可能に定義する
回復不能な損害の具体化: 金銭賠償では補償できない具体的損害を示す
技術的保護措置との関係: 被告が既に技術的保護措置を講じている場合、差止命令の必要性が減少
過度の負担: 差止命令が被告に過度の負担を課さないよう配慮

3. フェアユース抗弁の不確実性

本件ではフェアユース抗弁の本案判断は留保されているが、以下の点に注意:

4要素テスト: (1)使用の目的・性質、(2)著作物の性質、(3)使用された部分の量・重要性、(4)市場への影響
「AI学習市場」の認識: 裁判所がAI学習市場の存在を認めたことは、第4要素において被告に不利に働く可能性
変形性: Authors Guild v. Googleの「中間的複製」法理がAI学習に適用されるかは未解決
事実依存性: フェアユースは事実に強く依存するため、個別事案ごとの分析が必要

4. 技術的保護措置の戦略的重要性

ガードレールに関する和解規定は、以下の戦略的示唆を提供:

訴訟の早期段階: 訴訟の早期段階で技術的保護措置に合意することで、予備的差止命令を回避できる可能性
法的責任の軽減: 出力侵害のリスクを低減し、法的責任を軽減
本案への集中: 出力問題が技術的に対処されることで、学習データの合法性という本質的問題に集中できる
業界標準: ガードレールが業界標準となる可能性があり、早期実装が競争上有利に働く可能性

5. ライセンス市場の戦略的活用

裁判所の「AI学習市場」認識を踏まえ:

AI開発企業:
– 訴訟リスク低減のため、主要な著作権者とライセンス契約を検討
– ライセンス費用と訴訟費用・リスクのバランスを評価
– 業界全体でのライセンス標準構築に参加

著作権者:
– AI学習用ライセンスという新しい収益源を開拓
– 適切な料金設定とライセンス条件の策定
– 集団的ライセンシング(著作権管理団体を通じた)の活用

今後の展望:

1. 本件の今後の経過

修正訴状: 原告が却下された請求について修正訴状を提出する可能性(30日の期限)
証拠開示: 詳細な証拠開示手続きにより、Anthropicの学習データと技術的プロセスが明らかになる可能性
サマリー・ジャッジメント: 本案前判決(summary judgment)の申立てが提出される可能性
フェアユース判断: 最も重要な争点であるフェアユース抗弁について、地裁または控訴審で判断が示される
和解: 訴訟が長期化する中で、当事者間で和解に至る可能性

2. 関連訴訟への影響

本件の判断は、以下の並行訴訟に影響を与える可能性:

The New York Times v. OpenAI(ニューヨーク南部地区): ニュース記事の著作権
Authors Guild訴訟: 書籍の著作権
視覚芸術家訴訟: 画像生成AIに対する訴訟
Thomson Reuters v. ROSS Intelligence: 法律データベースとAI(本件で補足法源として引用)

これらの訴訟で共通する争点(学習データのフェアユース、出力侵害、二次的責任)について、本件の判断が先例または説得的権威として参照される可能性がある。

3. 立法による解決の可能性

AI著作権問題の複雑性と重要性を踏まえ、立法による解決が議論される可能性:

米国:
– 明確なAI学習用権利制限規定の導入(日本の30条の4やEUのTDM規定に類似)
– フェアユース法理の明確化(AI学習に特化した要素の追加)
– オプトアウト制度の法制化

国際的調和:
– WIPO等の国際フォーラムでのAI著作権ルールの議論
– 二国間・多国間協定によるルールの調和

ただし、米国議会は著作権改正に慎重であり、短期的な立法は期待しにくい。判例法による発展が当面は継続すると予想される。

4. AI技術の発展と法的対応

AI技術は急速に進化しており、法的枠組みも適応する必要がある:

新しい学習手法: Retrieval-Augmented Generation(RAG)、Few-shot learningなど、学習データへの依存度が異なる手法の登場
合成データ: 人工的に生成されたデータでの学習(著作権問題を回避)
出力の制御: より精密な出力制御技術の発展により、侵害リスクの低減
帰属とトレーサビリティ: 出力の元となった学習データを追跡する技術

これらの技術発展により、著作権問題の性質も変化する可能性がある。

注意すべき事項:

類似案件における留意点:

1. 業種・著作物の種類による違い

本件は音楽歌詞に関するものだが、他の種類の著作物では異なる考慮が必要:

ニュース記事: 事実報道は著作権保護が薄い(idea-expression dichotomy)
ソフトウェアコード: 機能的著作物として特別な取り扱い(Googlev. Oracle判例)
画像・動画: 視覚的著作物は言語的著作物と異なる分析が必要
データベース: 編集著作物としての保護

2. 証拠保全の重要性

AI出力は動的であり、時間とともに変化する可能性があるため:

早期の証拠保全: 侵害の可能性がある出力を早期に記録・保全
体系的なテスト: 多様なプロンプトで体系的にテストし、侵害パターンを特定
技術的証拠: スクリーンショット、API応答の記録、タイムスタンプ付き証拠
再現可能性: 侵害が再現可能であることを示す

3. 国際的側面

多国籍企業が関与する場合:

準拠法の選択: どの国の法律が適用されるか
管轄権: どの国の裁判所が管轄を有するか
判決の執行: 外国判決の承認・執行の可能性
データ所在地: 学習データやモデルがどこに保存されているか

4. ビジネスモデルへの影響

AI著作権訴訟のリスクは、ビジネスモデルに組み込む必要:

リスク評価: 著作権訴訟リスクの定量的・定性的評価
保険: 訴訟費用・損害賠償リスクに対する保険の検討
財務計画: 潜在的な和解金・損害賠償金の財務影響
投資家への開示: 重大なリスクとして投資家に開示

5. 技術的・法的デューデリジェンス

AI技術を導入・使用する企業は、以下のデューデリジェンスを実施すべき:

学習データの出所: ベンダーがどのようなデータで学習したか
ライセンス状況: 適切なライセンスを取得しているか
技術的保護措置: ガードレール等の実装状況
訴訟リスク: 継続中の訴訟や潜在的なリスク
契約条項: ベンダー契約における知的財産権に関する補償条項(indemnification)

このレポートに関する注意事項 (Warning/Notes)

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本レポートは、2025年10月5日時点で公開されている情報に基づいています。訴訟は現在も進行中であり、その後の展開により内容が変化する可能性があります。

本レポートは情報提供のみを目的としており、法的助言を構成するものではありません。個別の法的問題については、資格を有する弁護士にご相談ください。

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技術的な記述については、公開されている情報に基づく一般的な理解に基づいており、Anthropic社の実際の技術的実装とは異なる可能性があります。

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