趣旨
- 著作権法は、著作権者の利益を侵害しない一定の場合に、著作物の自由利用を認めている。
- 本条は、視覚障害者等の福祉に資するため、著作権に制限を加えた規定である。
第37条第1項(点字による複製)
- 公表された著作物は、点字により複製することができる。
- この権利制限が認められる理由は、視覚障害者の福祉の増進に必要であり、点字の利用者が限られ、作成に膨大な労力がかかり、経済的利益が期待されないためである。
第37条第2項(点字データ処理による利用)
- 公表された著作物について、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、または公衆送信(放送・有線放送を除く)を行うことができる。
- この規定は、コンピュータやインターネットの普及に対応して追加されたものであり、趣旨は第1項と同様に視覚障害者の福祉が目的である。
第37条第3項(視覚障害者等のための多様な方式による利用)
- 視覚障害者等の福祉事業を行う政令で定める施設・団体は、公表された視覚著作物について、専ら視覚障害者等の用に供するために必要と認められる限度において、文字を音声にすることなど、当該障害者が利用するために必要な方式により複製または公衆送信を行うことができる。
- ただし、すでに著作権者等によって必要な方式での提供が行われている場合は、この限りでない。
- この規定は、点字を習得していない視覚障害者等が多い実態を踏まえ、録音など点字以外の方式による利用の範囲を拡大したものである。
解説
第1項の解説
- 「公表された著作物」とは、発行、上演などにより公衆に提示されたものを指し、未公表の著作物は対象外である。
- 「点字により複製する」とは、点字器や点字プリンターを用いて紙などの有体物に点字文を打ち出すことをいう。
第2項の解説
- 「電子計算機を用いて点字を処理する方式」とは、パソコン点訳の過程における点字データを指す。
- 「記録媒体に記録」とは、点字データをフロッピーディスクやUSBメモリなどに保存することをいう。
- 「公衆送信」には、放送・有線放送は含まれず、自動公衆送信(送信可能化を含む)などが含まれる。
第3項の解説
- 利用できる主体は、「視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるもの」に限られる。具体的には、図書館、大学、障害者支援施設など、施行令で定められた施設や、一定の要件を満たす法人である。
- 利用できる著作物は、「公表された視覚著作物」であり、視覚により表現が認識される方式で提供されているもの(例:書籍、映画)である。
- 利用の方法は、「必要と認められる限度」で、文字を音声化する(朗読の録音など)など、視覚障害者等が利用するために必要な方式による複製や公衆送信が認められる。ただし、映画の情景説明のために映像部分を複製することは許されない。
- 本条に基づく利用に際しては、翻訳や翻案などの方法をとることができ(第43条、第42条の4)、適法に作成された複製物は譲渡により提供できる(第47条の4)。また、複製物には元の出所を明示しなければならない(第48条)。
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