条文の趣旨
- 視聴覚教育の発達に対応し、学校向け放送・有線放送・自動公衆送信および教材への掲載について、補償金支払いを条件として著作物利用を認める制度
- 教科用図書と同様に、教育目的で最適な著作物を利用できるようにする必要性から設けられた規定
参考:
利用可能な著作物
- 対象範囲: 公表済み著作物のみ
- 利用限度: 学校教育目的上客観的に必要と認められる範囲内
- 判断基準: 引用の要件よりも広範囲な利用が認められ、必要に応じて他人の著作物全編の使用も可能
参考:
対象となる番組・放送
- 学校向け放送番組: 教育課程基準に準拠した学校教育専用の番組
- 有線放送番組: 同様の基準を満たす有線放送による教育番組
- 自動公衆送信: 放送を受信して同時に放送対象地域内で再送信する場合に限定
- 事業者: NHKおよび民間放送事業者・有線放送事業者の番組を含む
認められる利用行為
放送・配信関連
- 無線放送による送信
- 有線放送による送信
- 入力型自動公衆送信(放送対象地域への同時再送信のみ)
参考:
- 著作権法における公衆送信権と送信可能化権の解説 (公的機関)
- 著作権法における放送と同時再送信の権利関係 (政府)
- 放送と著作権:放送事業者の権利と義務 (公的機関)
教材への掲載
- 対象教材: 当該番組と一体として学校内で利用する理解促進資料
- 掲載方法: 他人の著作物のみで編集著作物を作成することも許可
- 区分要件: 出所明示のため必要な程度で他部分から区分することが必要
- 利用制限: 放送・配信に使用される著作物に限定
著作者への通知義務
- 通知先: 著作権者ではなく著作者本人
- 通知内容: 利用する旨および改変内容(改変する場合)
- 通知時期: 原則として放送・発行前(著作者人格権に問題がない場合は事後も可)
- 通知方法: 特に制限なし
- 死亡時: 著作者死亡後は遺族への通知不要
参考:
補償金支払い義務
- 支払先: 著作権者
- 金額基準: 当事者間協議により決定(文化庁長官による定めなし)
- 金額水準: 教科用図書の補償金より高額、通常使用料より低額
- 算定考慮: 定額的作品と印税的作品で算定方法が異なる
- 教育専用作品: 本来教育目的で作成された著作物は相対的に高額
参考:
- 第66回 文化審議会著作権分科会 (政府)
- 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム(第4回) (政府)
- 文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(第3回) (政府)
付随的権利・制限
翻案等の権利
- 翻訳・編曲・変形・翻案が可能(43条1号)
- 学校教育目的上やむを得ない用字・用語変更等の改変が可能(20条2項1号)
- 著作者人格権を害する改変は禁止(50条)
参考:
- 5-5-1.翻訳権・翻案権/Webで著作権法講義 (専門家)
- 翻案権 – 印刷用語集 (公的機関)
- 連載 著作権と情報システム 第18回 (学術)
出所明示義務
- 掲載時は必ず出所を明示(48条1項2号)
- 違反時は罰則適用(122条)
録音・録画の扱い
- 授業都合による学校向け番組の録音・録画は本条の対象外
- 私的利用目的(30条)に該当しない限り著作権侵害となる
参考:
義務違反の効果
- 通知義務違反: 著作権侵害にはならないが法的債務が発生
- 補償金不払い: 著作権侵害にはならないが法的債務が発生(罰則なし)
- 協議不調時: 最終的に裁判所が金額を判断
参考:
- 公益社団法人著作権情報センター(CRIC) (公的機関)
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