みなさん、こんにちは。著作権解説シリーズの第3回をお届けします。今回は、作品を創作したクリエイターの皆さんが、一体どのような権利を持っているのかについて詳しく見ていきましょう。
2つの大きな柱:人格権と財産権
創作者が手にする権利は、大きく分けて2つのカテゴリーに分類されます。一つは「著作者人格権」、もう一つは「著作権(財産権)」です。
この2つの権利には、それぞれ全く異なる性質があります。著作者人格権は創作者の精神的な利益を守るもので、著作権(財産権)は経済的な利益を保護するものです。
著作者人格権:創作者だけが有する特別な権利
著作者人格権は、創作者だけが持つことのできる特別な権利です。この権利は他人に売ったり、遺産として相続したりすることはできません(著作権法第59条)。なぜなら、これは創作者の人格そのものと密接に結びついているからです。
1. 公表権:いつ、どのように発表するかを決める権利(第18条第1項)
あなたが小説を書いたとしましょう。その小説をいつ世に出すか、どんな形で発表するか、それとも発表しないでおくか。これらはすべてあなた自身が決められる権利です。
例えば:
- 出版社があなたの未発表の作品を勝手に出版することはできません
- SNSに投稿する予定だった写真を、他人が先に公開することは禁止されています
- 完成していない楽曲を、作曲者の許可なく演奏会で披露することはできません
2. 氏名表示権:名前を出すかどうかを決める権利(第19条第1項)
作品に自分の名前を載せるか、載せないか。実名にするか、ペンネームにするか。これも創作者が自由に決められます。
具体例:
- 漫画家が本名ではなくペンネームで活動したい場合
- 写真家が匿名で作品を発表したい場合
- 作詞家が複数の名義を使い分けたい場合
3. 同一性保持権:作品を勝手に変更されない権利(第20条第1項)
これは特に重要な権利です。あなたの作品を他人が勝手に改変することを防ぐ権利です。
例えば:
- あなたが描いた絵の色を無断で変更される
- 書いた文章の表現を勝手に修正される
- 作曲した楽曲のメロディーを許可なく変える
ただし、教科書に掲載するための用語統一や、建築物の改修など、やむを得ない場合の変更は認められることもあります(第20条第2項)。
著作権(財産権):経済的価値を守る権利
一方、財産権としての著作権は、作品から生まれる経済的利益を保護する権利です。こちらは人格権と異なり、他人に譲渡したり相続したりすることが可能です(第61条第1項)。
1. 複製権:複製するかどうかを決める権利(第21条)
あなたの作品を印刷したり、デジタルコピーしたり、録音・録画したりするかどうかを決められる権利です。
現代的な例:
- 電子書籍のダウンロード
- 音楽のCD化
- 写真のプリントアウト
- 動画のDVD化
2. 上演権・演奏権:ライブパフォーマンスに関する権利(第22条)
あなたの作品を公の場で演じたり、演奏したりする権利です。
例えば:
- あなたの楽曲をコンサートで演奏する
- あなたの脚本を劇場で上演する
- カラオケで歌を歌う
3. 上映権:スクリーンに映す権利(第22条の2)
映画館やプロジェクターで作品を上映する権利です。
4. 公衆送信権:インターネット上で流通させる権利(第23条)
これは現代において極めて重要な権利です。インターネットでの配信、テレビ放送、ラジオ放送などをコントロールします。
デジタル時代の例:
- YouTubeへの動画アップロード
- Spotifyでの音楽配信
- ブログでの写真掲載
- SNSでの画像投稿
5. 口述権:朗読などして伝える権利(第24条)
文章作品を声に出して読む権利です。例えば、小説の朗読会や詩の朗読などが該当します。
6. 展示権:美術作品などを展示する権利(第25条)
絵画や彫刻、未発表の写真などを美術館やギャラリーで展示する権利です。
7. 頒布権:映画の複製物を頒布する権利(第26条)
映画作品のDVDやブルーレイを販売・レンタルする権利です。
8. 譲渡権:一般的な販売権(第26条の2)
映画以外の作品の原本や複製物を売る権利です。ただし、一度適法に販売された物については、その後の転売に対してこの権利は及びません(いわゆる消尽)。
9. 貸与権:貸し出す権利(第26条の3)
作品の複製物を貸し出す権利です。図書館やレンタルショップでの貸し出しなどが該当します。
10. 翻訳権・翻案権:変形・変換する権利(第27条)
あなたの作品を別の形に変える権利です。
例:
- 小説の映画化
- 日本語作品の英語翻訳
- ピアノ曲のオーケストラ編曲
- 漫画のアニメ化
11. 二次的著作物の利用権:派生作品に関する権利(第28条)
自己の著作物の翻案により生まれた二次的著作物についても、原作者が同様の権利を持ちます。
映画の著作権の特殊性
映画については著作権法上特別なルールがあります。通常、映画監督が著作者となりますが(第16条)、著作者が製作に参加することを約束している場合、その著作権は映画製作者(映画会社など)に帰属することになります(第29条1項)。ただし、著作者人格権は著作者たる映画監督等が保持し続けます。
二次的著作物の複雑な権利関係
既存の作品をもとに新しい作品を作った場合、その利用には注意が必要です。例えば、外国の小説を日本語に翻訳した場合、その翻訳小説を利用するには:
- 翻訳者の許可
- 原作者の許可
両方が必要になります。ただし、原作の著作権の保護期間が既に切れている場合は、翻訳者の許可だけで済みます。
権利の譲渡と利用許諾
財産権としての著作権は、創作者が他人に譲渡することができます。ただし、契約上「買取り」という用語を使っていても、それだけで著作権の譲渡にはならないと一般的に考えられています。したがって、後にトラブルになる可能性を避けるため、「著作権を譲渡する」という明確な条項を契約書に記載することが重要です。
SNS時代の権利行使
現代では、SNSへの投稿も重要な権利行使の場面です。例えば、新聞社のWebサイトに掲載された写真を無断でSNSにアップロードする行為は、公衆送信権(第23条1項)の侵害となります。なお、投稿され送信可能化した時点で、実際にアクセスされなくても権利侵害となります。
まとめ
クリエイターの皆さんは、作品を創作した瞬間から、これらの多様な権利を自動的に取得します。著作者人格権は創作者の精神的な利益を、財産権としての著作権は経済的な利益を守ってくれます。
デジタル時代において、これらの権利を正しく理解し、適切に行使することは、創作活動を続けていく上で欠かせません。次回は、これらの権利がいつまで続くのか、保護期間について詳しく解説します。
作品を作る人も、作品を利用したい人も、お互いの権利を尊重しながら、豊かな文化を育んでいきましょう。
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