第4回: 権利の存続期間とその計算 – いつまで保護が続くのか

みなさん、こんにちは。著作権解説シリーズの第4回目にお越しいただき、ありがとうございます。今回のテーマは「権利の存続期間とその計算」です。

著作権は永遠に続くものなのでしょうか?それとも、いつかは誰でも自由に使えるようになるのでしょうか?この疑問にお答えしながら、著作権がいつまで保護されるのか、その計算方法も含めて、わかりやすく解説していきます。

なぜ著作権に期限があるのか

まず、なぜ著作権に期限が設けられるべきなのかを考えてみましょう。

著作権制度には二つの重要な目的があります。一つは、創作者の権利を守ることで創作活動を促進すること。もう一つは、一定期間が過ぎた後に作品を社会全体の共有財産として活用できるようにすることです。

もし著作権が永遠に続いたらどうなるでしょうか?古典的な名作も、先人の知識や文化も、すべて誰かの所有物のままになってしまいます。これでは、新しい創作活動や文化の発展が阻害されてしまう可能性があります。

そこで、一定期間はしっかりと創作者の権利を保障しつつ、その経過後は、その作品を「パブリック・ドメイン」つまり公有の財産として、誰でも自由に利用できるようにしているのです。

基本的な保護期間のルール

原則:著作者の死後70年まで

日本の著作権法では、著作権の基本的な保護期間を「著作者の死後70年まで」と定めています(第51条第2項)。

つまり、著作権の保護は著作者が作品を創作した瞬間から始まり、著作者が亡くなってから70年が経過するまで続きます。

例えば、小説家の太郎さんが2024年に小説を書いたとします。太郎さんが2050年に亡くなった場合、その小説の著作権は2050年+70年=2120年まで保護されることになります。

計算を簡単にするための特別ルール

ただし、著作権法では、計算を簡便にするため、死亡や公表の「翌年の1月1日」から起算することになっています(第57条)。

先ほどの例で言えば、太郎さんが2050年12月15日に亡くなった場合、保護期間は2051年1月1日から70年後の2120年12月31日まで、ということになります。

作品の種類によって異なる保護期間

著作権の保護期間は、作品の種類や公表の方法によって異なる場合があります。

実名の作品

実名で発表された作品は、先ほど説明した「死後70年」のルールが適用されます。これには、広く知られているペンネーム(周知の変名)も含まれます。

例えば、夏目漱石の作品は「夏目漱石」という名前で広く知られているため、実名と同じ扱いになります。

無名・変名の作品

作者が匿名で発表したり、あまり知られていないペンネームで発表した作品の場合は、「公表後70年」で保護期間が終了します(第52条第1項)。ただし、公表から70年以内に作者の死後70年が経過する場合は、やはり「死後70年」が適用されます(同項ただし書)。

団体名義の作品

会社などの団体名義で発表された作品も、「公表後70年」または創作後70年以内に公表されなかった場合は「創作後70年」で保護期間が終了します(第53条)。

映画の著作物の特別ルール

映画については、特別なルールが適用されます(第54条)。映画は多くの人が関わって制作されるため、個人の著作者の死亡時期を基準にするのが困難だからです。

映画作品の保護期間は「公表後70年」です。もし公表されなかった場合は「創作後70年」で保護期間が終了します。

複数の著作者がいる場合

複数の人が共同で創作した作品(共同著作物)の場合はどうなるでしょうか?

この場合は、「最後に亡くなった著作者の死後70年」まで保護されます(第51条第2項)。

例えば、A氏とB氏が共同で小説を書いたとします。A氏が2050年に、B氏が2055年に亡くなった場合、この小説の著作権はB氏の死後70年、つまり2125年まで保護されることになります。

相続人がいない場合

もし著作権者に相続人がいない場合は、保護期間中であっても著作権が消滅してしまいます。これは、権利を承継する人がいなくなってしまうためです。

人格権の保護期間

ここで注意していただきたいのは、これまで説明してきた保護期間は、主に「財産権としての著作権」に関するものだということです。

著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)については、著作者が亡くなると同時に消滅します。ただし、著作者の死後であっても、これらの権利を侵害するような行為は禁止されています(第60条)。

保護期間延長の歴史

実は、日本の著作権保護期間は以前は「死後50年」でした。これが「死後70年」に延長されたのは、2018年12月30日のことです。

この変更により、多くの作品の保護期間が20年間延長されました。ただし、すでに保護期間が終了していた作品については、後から保護を復活させることはありませんでした。

戦時加算という特別な制度

日本には「戦時加算」という特別な制度があります。これは、第二次世界大戦時の連合国の著作物について、通常の保護期間に戦争期間(約10年5か月)を加算するというものです。

例えば、イギリスの作家の作品については、通常の保護期間に加えて約10年5か月の期間が追加されることになります。

外国の作品はどうなる?

外国の著作物の日本での保護期間は、基本的に日本の法律に従います。ただし、相互主義という原則により、その国の保護期間が日本より短い場合は、相手国の保護期間に合わせられることがあります(第58条)。

例えば、ある国の保護期間が「死後50年」だった場合、その国の著作物の日本での保護期間も50年になる可能性があります。

保護期間を調べる際の注意点

著作権の保護期間を調べる際は、以下の点に注意してください:

  1. 著作者の正確な死亡年月日:これが最も重要な情報です
  2. 作品の種類:小説、映画、写真などによってルールが異なります
  3. 公表の有無と時期:未公表作品には特別なルールがあります
  4. 共同著作物かどうか:複数の著作者がいる場合は最後の死亡者が基準
  5. 外国作品の場合:相互主義の適用可能性があります

権利が切れた作品の活用

保護期間が終了した作品は、誰でも自由に利用できるようになります。これらの作品を使って:

  • 新しい作品を創作する
  • 商業的に利用する
  • 改変や翻案を行う
  • デジタル化して配信する

などが、著作権者の許可なしに可能になります。

ただし、翻訳や編曲などの二次的著作物については、原作品の保護期間が切れていても、翻訳者や編曲者の権利は別途存在することに注意が必要です。

まとめ

著作権の保護期間について、重要なポイントをまとめます:

  • 基本は「著作者の死後70年」
  • 計算は翌年1月1日から開始
  • 作品の種類によって異なるルールがある
  • 外国作品については特殊なルールがある
  • 保護期間終了後はパブリック・ドメインとなる

創作者の権利を適切に保護しながら、文化の発展も促進する。この絶妙なバランスを取るのが、保護期間制度の役割なのです。

次回は「隣接する権利の世界」について解説します。著作権以外にも、実演家や放送事業者などが持つ特別な権利について詳しくお話しします。お楽しみに!



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