第7回: 例外的な無償利用 – 法律が認める自由使用の範囲

はじめに

こんにちは。著作権解説シリーズも7回目になりました。これまでは著作権がどのように作品を守っているかについてお話ししてきましたが、今回は少し視点を変えて、「著作者の許可なしに作品を使える場合」について詳しく見ていきましょう。

実は、著作権法は著作者の権利を保護する一方で、社会全体の利益や公共の福祉のため、特定の条件下では著作物を自由に利用できる仕組みも用意しています。これを「権利制限規定」と呼んでいます。

なぜ「例外」が必要なのか?

まず、なぜこのような例外的な利用が認められているのでしょうか。

もし著作権が絶対的なものだったら、どうなるでしょう。例えば、学校の先生が授業で新聞記事の一部を生徒に見せたいと思っても、いちいち新聞社に許可をもらわなければならない。図書館で調べ物をするときも、本の一部もコピーできない。こんな状況では、教育や研究、文化の発展が著しく阻害されてしまいます。

そこで著作権法は、著作者の権利を尊重しつつも、社会全体の利益とのバランスを取るため、限定的な場面で著作物を自由に使えるルールを設けているのです。

自由利用の基本的な考え方

ただし、これらの例外は無制限に認められているわけではありません。次の3つの条件を満たす場合に限られています:

  1. 法律で明確に定められた場面であること
  2. 著作者の利益を不当に害しないこと
  3. 作品の通常の利用を妨げないこと

これらの条件は、著作者の権利を適切に保護しながら、社会の必要性に応えるための重要な基準となっています。

主な自由利用の場面

それでは、具体的にどのような場合に著作物を自由に利用できるのか、代表的なケースを見ていきましょう。

1. 個人的な使用のための複製(第30条)

最も身近な例外

これは皆さんが日常的に行っている行為です。自分や家族、親しい友人など、ごく限られた範囲で使用する目的であれば、著作物をコピーすることができます。

具体例:

  • 好きな音楽CDを自分のスマートフォンに入れる
  • 気に入った雑誌記事を自分用にコピーする
  • テレビ番組を家庭用レコーダーで録画する

ただし、次の場合は除外されます:

  • コンビニのコピー機等の公衆が使用する機器を使ってのコピー
  • コピーガードを解除してのコピー
  • 違法にアップロードされた音楽や動画を知りながらダウンロードする行為
  • 映画館での隠し撮り

2. 学校などでの教育利用(第35条)

教育現場での柔軟な利用

学校の授業では、教育効果を高めるため、様々な著作物を使用する必要があります。そこで、教育目的に限定して、比較的自由な利用が認められています。

利用できる場面:

  • 授業で使用するプリント作成
  • オンライン授業での教材共有
  • 学校内での上映会や演奏会

注意点:

  • あくまで授業の一環としての使用に限られます
  • オンライン配信する場合は補償金の支払いが必要(リアルタイム配信を除く)
  • 教科書やドリルといった児童一人ひとりが購入することを予定されている書籍の丸写しは認められません

3. 図書館での複製サービス(第31条)

調査研究をサポート

公共図書館や大学図書館では、利用者の調査研究をサポートするため、一定の条件下で資料のコピーサービスを提供できます。

利用条件:

  • 利用者の求めに応じて行うこと
  • 調査研究が目的であること
  • 公表された著作物の一部分であること
  • 一人につき1部の提供であること

令和3年改正の影響: 令和5年6月からは、特定の図書館において、補償金を支払うことで図書館資料の一部をメール送信できるようになりました。コロナ禍で図書館に行けない状況が続いたことを受けた制度改善です。

4. 引用による利用(第32条)

批評・研究での活用

これは著作物を利用する上で非常に重要な制度です。以下の条件をすべて満たせば、他人の著作物を自分の作品に組み込むことができます。

引用の条件:

  • 既に公表されている作品であること
  • 報道、批評、研究などの正当な目的があること
  • 引用部分と自分の表現の主従関係が明確であること
  • 引用部分と自分の表現とが明確に区分されていること
  • 引用した部分に改変を加えないこと
  • 出典が明示されていること(第48条第1項第1号)

良い引用の例:

田中教授は「現代社会における情報技術の発達は、
人々のコミュニケーション様式を根本的に変化させている」と述べている(田中一郎『情報社会論』○○出版、2023年、15頁)。
この指摘は確かに重要だが、私はさらに...

5. 報道での利用(第41条)

ニュース報道の必要性

時事の事件を報道する際、その事件に関連する著作物を紹介することは不可欠です。そこで、報道の目的で正当な範囲内であれば、関連する著作物を使用できます。

例:

  • 火災のニュースで燃えた絵画作品を映像で紹介
  • 作家の訃報記事でその代表作の一部を引用
  • 映画の興行成績を報じる際にポスターや予告編を使用

6. 試験問題での利用(第36条)

公正な評価のために

入学試験や資格試験などでは、受験者の能力を適切に測るため、様々な著作物を問題として使用する必要があります。

利用例:

  • 国語の試験での小説や評論文の出題
  • 英語の試験での英文記事の使用
  • 音楽の試験での楽曲の演奏

注意: 営利目的の試験(有料の模擬試験など)では補償金の支払いが必要です。

7. 障害者への配慮(第37条、第37条の2)

情報アクセスの平等性確保

障害により著作物の利用が困難な方々のため、特別な配慮が設けられています。例えば、以下の行為が許可されています。

視覚障害者等への配慮:

  • 点字による複製
  • 音声読み上げ用データの作成
  • 拡大文字版の作成

聴覚障害者等への配慮:

  • 字幕の付加
  • 手話通訳の追加
  • 文字による情報提供

これらは、情報アクセスの平等を実現するための重要な制度です。

8. 非営利・無料の上演等(第38条)

文化活動の促進

以下の条件をすべて満たす場合、著作物を自由に上演・演奏できます:

  1. 営利を目的としない
  2. 観客から料金を取らない
  3. 出演者に報酬を支払わない

具体例:

  • 学校の文化祭での演劇
  • 公民館でのボランティア演奏会
  • 老人ホームでの慰問コンサート

注意: オンライン配信は「公衆送信」という別の権利が関わるため、上記の条件を満たしても自由にはできません。

9. 屋外の美術作品等の利用(第46条)

街並みの一部として

公園の彫刻や特徴的な建築物など、屋外に恒常的に設置されている美術作品や建築物は、写真撮影やSNS投稿などで自由に利用できます。

例:

  • 東京タワーをバックにした記念写真
  • 街角の彫刻を含む風景写真
  • 歴史的建造物の観光パンフレット

制限: ただし、美術作品の写真を販売目的で現像したり、建築物を真似して建設し他人に売ることはできません。

10. 情報検索サービス等(第47条の5)

デジタル社会への対応

書籍や音楽の検索サービスや論文の剽窃判定サービスなど、現代のデジタル社会に不可欠なサービスのため、必要最小限の範囲で著作物を利用できます。

対象サービス:

  • 書籍・論文・音楽・映画の検索
  • 論文の剽窃の有無を判断等するための情報の収集・解析

これらのサービスでは、検索結果画面に小さなサムネイル画像や短い抜粋文を表示すること(「軽微利用」といいます)が認められています。

利用時の注意点

著作者人格権は別扱い

重要なのは、これらの自由利用が認められる場合でも、著作者人格権(作者の名前を表示する権利、作品を勝手に改変されない権利など)は制限されないということです。

つまり、自由に利用できる場合でも:

  • 作者名の表示は必要(表示が求められている場合)
  • 作品の内容を勝手に変更してはいけない
  • 作者の名誉を傷つけるような利用方法は避ける

といった配慮が必要です。

「必要な範囲内」の原則

どの制度も「必要と認められる限度において」という条件が付いています。つまり、目的を達成するために必要最小限の利用にとどめる必要があります。

例えば、授業で新聞記事を使用する場合、関連する部分だけをコピーすれば足りるのに、新聞全体をコピーすることは認められません。

出所の明示

多くの場合、著作物を利用する際は出所を明示することが求められています(第48条)。これは著作者への敬意を示すとともに、読者や視聴者が元の作品を確認できるようにするためです。

適切な出所明示の例:

  • 書籍:「著者名『書籍名』出版社、出版年、ページ数」
  • 新聞:「新聞名、掲載日」
  • ウェブサイト:「サイト名、URL、アクセス日」

最近の法改正動向

著作権法は時代の変化に合わせて改正が続けられています。特に近年は:

デジタル化・オンライン化への対応

コロナ禍を機に、教育現場でのオンライン授業や図書館のデジタルサービスが急速に普及しました。これに対応するため、オンライン授業での著作物利用や図書館資料のメール送信などが新たに認められました。

AI・機械学習への対応

人工知能の発達に伴い、大量の著作物を学習データとして使用する場面が増えています。これに対応するため、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」にあたる場合には著作権侵害にならないとする規定が導入されました(第30条の4)。

実務でのアドバイス

迷ったときは相談を

自由利用の範囲は複雑で、判断に迷うことも多いでしょう。そんなときは:

  1. 専門家への相談(おすすめ):弁護士や知的財産の専門家に相談する
  2. 関係団体への問い合わせ:音楽なら音楽業界団体、出版物なら出版業界団体など

記録を残す

自由利用の制度を使用する際は、その根拠となる条文や判断理由を記録に残しておくことをお勧めします。後日問題になった際の説明資料として役立ちます。

相手方への配慮

法的に問題がなくても、著作者や権利者への配慮を忘れずに。事前に連絡できる場合は一報入れる、感謝の気持ちを示すなど、人間関係を大切にすることも重要です。

まとめ

今回は、著作権法が認める「例外的な無償利用」について詳しく見てきました。これらの制度は、著作者の権利を尊重しながらも、教育、研究、報道、文化活動など、社会にとって重要な活動を支えるために設けられています。

重要なポイントをまとめると:

  1. 限定的な制度:法律で明確に定められた場面でのみ利用可能
  2. 条件の遵守:それぞれの制度には厳格な条件がある
  3. 必要最小限の利用:目的達成に必要な範囲内での利用
  4. 著作者人格権への配慮:例外利用が認められる場合も作者の人格権への配慮は必要
  5. 時代への対応:デジタル化やAIの発達に合わせて法改正が進んでいることに注意

これらの制度を適切に理解し活用することで、他者の著作権を尊重しながらも、豊かな文化活動や学習活動を行うことができます。

次回は「適法な作品活用術」として、契約や手続きを通じて正式に著作物を利用する方法について詳しくお話しします。権利者との適切な関係構築や、スムーズな利用許諾の取得方法など、実践的な内容をお届けする予定です。

皆さんも日常生活の中で著作物を利用する機会は多いと思います。今回学んだ知識を活かして、適切で安心な利用を心がけてくださいね。


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