第8回: 適法な作品活用術 – 契約から公的手続きまでの実務

みなさん、こんにちは。著作権解説シリーズも第8回を迎えました。今回は、いよいよ実践編として「どうやって他人の作品を適法に利用するか」について詳しくお話しします。

これまでの回で、著作権がどんなものか、どんな権利があるのかを学んできました。でも実際に他人の作品を使いたいとき、「どこに連絡すればいいの?」「どんな手続きが必要なの?」と迷ってしまうことも多いでしょう。

今回は、そんな疑問にお答えします。法律の専門知識がなくても理解できるよう、具体的な事例を交えながら説明していきますね。

他人の作品を使う基本的な方法

他人が創作した作品を使いたいとき、基本的には次の3つの方法があります。

1. 使用許可をもらう(利用許諾)

これが最も一般的な方法です。「あなたの作品を、こんな風に使わせてください」とお願いして、OKをもらうことです。

例えば、あなたが会社のウェブサイトで有名な写真家の作品を使いたいとします。その場合、写真家さんに連絡して「弊社のサイトで3ヶ月間掲載したいのですが」といった具体的な使用方法を説明し、許可をもらうのです。

2. 権利そのものを買い取る(著作権譲渡)

これは、作品の著作権を完全に譲り受ける方法です。権利を買い取った後は、あなたが新しい著作権者になります。

企業が新しいキャラクターをデザイナーに依頼して、そのキャラクターの権利を完全に会社のものにしたい場合などに使われます。ただし、著作者人格権は譲渡できないので、作品を勝手に改変したりはできません。

3. 公的な手続きを利用する(文化庁長官の裁定)

作品の権利者がどこにいるか分からない場合や、連絡が取れない場合に使える特別な制度です。文化庁に申請して、一定の手続きを経ることで作品を使用できるようになります。

使用許可をもらう具体的な手順

では、最も一般的な「使用許可をもらう」方法について、詳しく見ていきましょう。

ステップ1: 権利者を特定する

まず、誰に許可をもらえばいいのかを調べる必要があります。

個人の作品の場合

  • 作者本人が権利を持っているのが基本
  • ただし、出版社や制作会社が権利を管理している場合もある
  • 作品に記載されているクレジット(©マークの後に書かれた情報)を確認

企業が制作した作品の場合

  • 制作会社や出版元が権利者のことが多い
  • パッケージや公式サイトで権利情報を確認

音楽の場合

  • 作詞・作曲者の権利は音楽著作権協会(JASRAC)が管理していることが多い
  • 歌手や演奏者の権利(著作隣接権)は別途確認が必要

ステップ2: 使用目的を明確にする

権利者に連絡する前に、以下の点を整理しておきましょう。

  • 何の目的で使うのか(商用・非商用、広告・教育目的など)
  • どこで使うのか(ウェブサイト・印刷物・テレビ・店舗など)
  • いつまで使うのか(期間限定・永続的など)
  • どの範囲で使うのか(日本国内・世界各国など)
  • どの程度の規模か(配布部数・アクセス数の想定など)

ステップ3: 正式に許可を申請する

口約束ではトラブルの元になるので、必ず書面で申請しましょう。

申請書に含めるべき内容:

  • 申請者の正式名称と連絡先
  • 使用したい作品の詳細(タイトル・作者・出典など)
  • 具体的な使用方法
  • 使用期間と範囲
  • 想定される使用料の支払い条件

ステップ4: 契約書を結ぶ

許可がもらえたら、条件を明記した契約書を作成します。

契約書で確認すべきポイント:

  • 許可される使用方法の詳細
  • 使用料の金額と支払い時期
  • 契約期間
  • 作品を改変できるかどうか
  • クレジット表記の方法
  • 契約違反時の対応

実際の例を挙げてみましょう。個人でブログを運営しているAさんが、プロの写真家Bさんの風景写真を記事で使いたいとします。

【使用許可申請の例】

件名:写真使用許可のお願い

Bさん

初めまして。旅行ブログ「○○の旅日記」を運営しているAと申します。

この度、Bさんが撮影された「北海道の夕日」(2023年○月○日投稿)の写真を、
私のブログ記事で使用させていただきたく、ご連絡いたしました。

【使用目的】旅行体験談の記事内での挿絵として
【使用場所】個人ブログ「○○の旅日記」(URL: ○○○)
【使用期間】2024年○月○日から1年間
【使用方法】記事内に適切なサイズで掲載、あなたのお名前を明記
【商用利用】なし(広告収入等は一切ありません)

もしご許可いただけるようでしたら、使用料等についてもご相談させてください。

何卒よろしくお願いいたします。

権利管理団体を活用する方法

音楽や一部の写真・映像などは、権利者団体が一括して管理している場合があります。

音楽著作権協会(JASRAC)

国内で最も知られた権利管理団体です。多くの楽曲の作詞・作曲者の権利を管理しています。

JASRACを通じて許可が取れるもの:

  • 店舗でのBGM使用
  • イベントでの楽曲使用
  • ウェブサイトでの音楽配信
  • カラオケでの楽曲提供

利用料金の仕組み:

  • 使用目的や規模に応じて料金体系が決められている
  • 年間契約や都度払いなど、様々な支払い方法がある

その他の管理団体の例

日本写真著作権協会(JPCA)

  • プロ写真家の作品を管理
  • 商用利用から個人利用まで対応

日本映像ソフト協会(JVA)

  • ビデオソフトの二次利用を管理
  • ビデオソフトを上映したり貸し出したりする場合の利用許可

権利者不明作品の活用方法

時々、「この作品を使いたいけれど、作者がどこにいるか分からない」という状況に遭遇することがあります。そんなときに使えるのが、文化庁長官の裁定制度です(第67条第1項)。

裁定制度とは

権利者が不明だったり、連絡が取れない場合に、国が代わりに使用許可を出してくれる制度です。ただし、一定の手続きと費用が必要になります。

裁定申請のための前提条件:「相当な努力」

裁定申請を行うにあたっては、「相当な努力」をしても権利者が見つからなかったことが前提条件になります。「相当な努力」として具体的に求められる行為を著作権法施行令第7条の5第1項が定めています。

  • 名簿・名鑑の閲覧又はインターネット検索を行った
  • 関係団体に問い合わせをした
  • 著作権情報センターのウェブサイト又は新聞で権利者を探す広告を出した

    手続きの流れ

    1. 事前準備 文化庁への事前相談のうえ、インターネット検索や関係団体への照会といった措置をとります。同時に、申請書を作成しつつ文化庁の指導を仰ぎます。

    2. 広告 著作権情報センターのウェブサイトに「この作品の権利者を探しています」という広告を掲載します。

    3. 正式申請 広告期間(通常7日間)経過後、正式な裁定申請を行います。

    4. 担保金の供託 文化庁が決定した金額を法務局に供託します。

    5. 利用開始 供託が完了すると、作品の利用を開始できます。

    もっとも、実際のところ、裁定申請は年間数十件行われているようですが、その多くは国立国会図書館によるデジタルアーカイブ事業や大学試験問題集の出版等、大規模な点数の申請を一度に行うケースになっています。

    契約交渉のコツ

    権利者との交渉をスムーズに進めるためのポイントをお伝えします。

    相手の立場を理解する

    権利者の主な関心事:

    • 作品が適切に使われるか
    • 作者の名前が正しく表示されるか
    • 適正な対価が支払われるか
    • 作品の価値が損なわれないか

    透明性を保つ

    • 使用目的を正直に説明する
    • 想定される利益や影響を隠さない
    • 契約条件は明確に文書化する

    Win-Winの関係を目指す

    • 権利者にもメリットがある提案を考える
    • 宣伝効果や知名度向上の機会を提供
    • 長期的な協力関係の構築を視野に入れる

    デジタル時代の新しい活用方法

    インターネットが普及した現在、作品の活用方法も多様化しています。

    Creative Commons(クリエイティブ・コモンズ)

    作者が「一定の条件下で自由に使っていいよ」と宣言している作品を探すことができます。

    主な条件:

    • 作者名の表示が必要(BY)
    • 商用利用禁止(NC)
    • 改変禁止(ND)
    • 元の作品と同じCCライセンスでの公開(SA)

    パブリックドメイン

    著作権が切れた作品や、作者が権利を放棄した作品は自由に使用できます。

    注意点:

    • 日本と外国では著作権期間が異なる場合がある
    • 翻訳や編集に別の著作権が発生している場合がある

    トラブルを避けるための注意点

    適法に作品を活用するために、以下の点に注意しましょう。

    よくある落とし穴

    1. 「無料だから大丈夫」という誤解

    • 無料で公開されていても著作権は存在する
    • 必ず利用条件を確認する

    2. 「少しだけなら大丈夫」という誤解

    • 量の多少に関わらず許可は必要
    • 引用の要件を満たしているか確認する(第32条)

    3. 「個人利用だから大丈夫」という誤解

    • SNSへの投稿も「公衆送信」に該当する
    • 私的使用の範囲を正しく理解する(第30条)

    契約書で確認すべき重要事項

    使用許可の範囲

    • 使用媒体(ウェブ・印刷・放送など)
    • 使用地域(日本国内・世界各国など)
    • 使用期間(1年間・永続的など)

    改変の可否

    • サイズ変更は可能か
    • 色調補正は可能か
    • 一部カットは可能か

    再許諾の可否

    • 第三者に又貸しできるか
    • 関連会社での使用は可能か

    まとめ:安心して作品を活用するために

    今回は、他人の作品を適法に活用するための具体的な方法をお伝えしました。

    重要なポイントを振り返ると:

    1. 必ず権利者の許可を取る – 「知らなかった」では済まされません
    2. 契約は書面で行う – 口約束はトラブルの元です
    3. 使用条件を明確にする – 曖昧な合意は後でもめることになります
    4. 適正な対価を支払う – 創作者の権利を尊重しましょう
    5. 困ったら専門家に相談 – 著作権を専門とする弁護士に相談しましょう

    デジタル時代になって、作品の利用機会は格段に増えました。でも同時に、権利侵害のリスクも高まっています。正しい知識と適切な手続きで、みんなが気持ちよく作品を共有できる環境を作っていきたいですね。

    次回の第9回では、「もし権利侵害をしてしまったら、どんなペナルティがあるのか」について詳しく解説します。知らずに大きな負担を負ってしまわないよう、しっかりと学んでいきましょう。


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