Thaler v. Vidal
Case Metadata
Basic Information
1. Case Name: Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207 (Fed. Cir. 2022), cert. denied, 143 S. Ct. 1783 (2023)
2. Court: United States Court of Appeals for the Federal Circuit; United States Supreme Court (certiorari denied)
3. Filing Date: August 29, 2019 (initial USPTO application); September 3, 2020 (district court filing)
4. Judgment Date: August 5, 2022 (Federal Circuit); April 24, 2023 (Supreme Court cert. denied)
5. Case Number: 21-2347 (Fed. Cir.); 22-919 (U.S.)
6. Current Status: Final – Supreme Court denied certiorari, Federal Circuit decision stands
Parties
7. Plaintiff(s): Stephen Thaler, individual inventor and AI researcher, owner of Imagination Engines, Inc.
8. Defendant(s): Katherine K. Vidal, Under Secretary of Commerce for Intellectual Property and Director of the United States Patent and Trademark Office (successor to Andrew Iancu)
9. Key Law Firms: Brown Neri Smith & Khan LLP (for Thaler); U.S. Department of Justice (for USPTO)
10. Expert Witnesses: Ryan Abbott (University of Surrey, expert on AI and patent law); Lawrence Solum (University of Virginia, jurisprudence expert)
Legal Framework
11. Case Type: Patent law – inventorship requirements for artificial intelligence systems
12. Primary Legal Claims: Interpretation of 35 U.S.C. §§ 100(f), 101, 102, 103, 115; Constitutional requirements for inventorship
13. Secondary Claims: Administrative Procedure Act review; USPTO’s authority to determine inventorship
14. Monetary Relief: No monetary damages sought; declaratory and injunctive relief requested
Technical Elements
15. AI/Technology Involved: DABUS (Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience) – neural network-based AI system designed for autonomous invention
16. Industry Sectors: Patent law, artificial intelligence research, pharmaceutical development, food container manufacturing
17. Data Types: Patent application data, neural network training data, invention disclosure documentation
Database Navigation
18. Keywords/Tags: AI inventorship, DABUS, patent eligibility, artificial intelligence, autonomous invention, USPTO policy, Federal Circuit, 35 USC 100(f), machine inventor, neural networks
19. Related Cases: Thaler v. Commissioner of Patents (UK); Thaler v. Comptroller-General of Patents (EPO); In re Application No. 16/524,350 (USPTO); Thaler v. Commissioner of Patents (Australia)
詳細分析 (Detailed Analysis)
事件の概要 (Case Overview)
背景と争点 (Background and Issues)
事実関係: Stephen Thaler氏は、2019年7月29日に2件の特許出願を米国特許商標庁(USPTO)に提出した。これらの出願は、食品容器の幾何学的形状とニューラルフレームパルスを利用した緊急時の注意喚起装置に関するものであった。特筆すべきは、Thaler氏がこれらの発明の発明者として自身ではなく、「DABUS」(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)と名付けられた人工知能システムを指定したことである。DABUSは、Thaler氏が開発した複雑なニューラルネットワークシステムで、自律的に新しいアイデアを生成し、発明を創出する能力を持つとされている。
USPTOは2019年12月17日、両出願を不完全として却下した。その理由は、発明者として自然人(natural person)が記載されていないというものであった。Thaler氏は再審査を請求したが、2020年4月22日にUSPTOは再度却下の決定を下した。この決定を受けて、Thaler氏は連邦地方裁判所に提訴し、その後連邦巡回控訴裁判所に上訴した。
中心的争点: 本件の核心的争点は、人工知能システムが米国特許法上の「発明者」となり得るか否かである。具体的には、35 U.S.C. § 100(f)における「individual」の解釈が争点となった。同条項は発明者を「the individual or, if a joint invention, the individuals collectively who invented or discovered the subject matter of the invention」と定義している。
原告の主張: Thaler氏は以下の主張を展開した:
– DABUSは実際に発明の着想(conception)を行った主体であり、真の発明者として認められるべきである
– 特許法の「individual」という用語は必ずしも人間に限定されず、AIも含み得る
– AIを発明者として認めることは、イノベーションの促進という特許法の目的に合致する
– 発明者の誤った記載は特許の無効事由となり得るため、真の発明者(DABUS)を記載することが法的に正しい
– 憲法上の知的財産条項は「inventors」への特許付与を規定しているが、これをAIに拡張することは可能である
被告の主張: USPTO及び連邦政府は以下の反論を提示した:
– 特許法の文言、立法経緯、判例法はすべて発明者が自然人であることを前提としている
– 「individual」という用語は辞書的にも法的にも人間を指す
– 特許法の他の条項(宣誓書要件等)もAIが発明者となることを想定していない
– 議会がAIを発明者として認める意図があれば、明確な立法措置を取るはずである
– AIに法的権利を付与することは現行法体系全体と整合しない
AI/技術要素: DABUSは、複数の人工ニューラルネットワークから構成される高度なAIシステムである。このシステムは「創造的マシン」パラダイムに基づいて設計されており、新しい概念やアイデアを自律的に生成する能力を持つとされる。DABUSは単なるツールではなく、人間の指示や介入なしに発明プロセスを完遂できると主張されている。システムは連想記憶と強化学習を組み合わせ、新規性と有用性を評価しながら発明的概念を生成する。
手続きの経過 (Procedural History)
重要な手続き上の決定:
– 2020年9月2日:連邦地方裁判所はUSPTOの申立てに基づき略式判決を下し、AIは発明者になり得ないと判断
– 2021年9月2日:地方裁判所は最終判決を下し、Thaler氏の請求を棄却
– 2022年8月5日:連邦巡回控訴裁判所は地方裁判所の判決を支持
– 2023年4月24日:米国最高裁判所は上告受理申立て(certiorari)を却下
証拠開示: 本件は主に法律問題として扱われたため、広範な証拠開示は行われなかった。主要な証拠はDABUSの技術仕様書、発明の詳細、Thaler氏の宣誓供述書、専門家意見書等の書面証拠に限定された。
専門家証言: Ryan Abbott教授は、AIと知的財産法の交差点に関する専門知識を提供し、AIを発明者として認めることの政策的利点を説明した。Lawrence Solum教授は、法人格と法的主体性に関する理論的枠組みを提示し、非人間主体への権利付与の可能性について論じた。
判決の概要 (Judgment Summary)
裁判所の判断 (Court’s Decision)
主要な判決内容: 連邦巡回控訴裁判所は、全員一致で地方裁判所の判決を支持し、AIシステムは米国特許法上の発明者になり得ないと判断した。裁判所は以下の理由を示した:
1. 文言解釈: 35 U.S.C. § 100(f)の「individual」という用語は、その通常の意味において自然人を指す。辞書的定義、法的用法、日常的使用のいずれにおいても、「individual」は人間を意味する。
2. 法体系の一貫性: 特許法の他の条項、特に35 U.S.C. § 115の宣誓書要件は、発明者が法的能力を持つ自然人であることを前提としている。AIは宣誓や法的責任を負うことができない。
3. 立法意図: 議会は特許法を制定・改正する際、発明者が人間であることを一貫して前提としてきた。2011年のAmerica Invents Actを含む最近の改正でも、この前提は変更されていない。
4. 判例法との整合性: 過去の判例は、発明には「着想」(conception)が必要であり、これは「精神的行為」(mental act)であると確立している。AIには精神や意識がないため、法的意味での着想を行うことができない。
勝敗の結果: USPTO(被告)が完全勝訴し、Thaler氏の請求はすべて棄却された。裁判所は、現行法の下ではAIを発明者として認めることはできないと明確に判示した。
命令された救済措置: 裁判所は積極的な救済措置を命じず、USPTOの決定を維持した。つまり、DABUSを発明者とする特許出願は受理されず、Thaler氏は発明者を自然人に変更しない限り、これらの発明について特許を取得できない。
重要な法的判断:
– AIシステムは米国特許法上の「発明者」になり得ない
– 特許法の「individual」は自然人のみを指す
– 政策的考慮や技術革新の促進という議論は、明確な法文の解釈を変更する根拠にはならない
– AIを発明者として認めるためには、議会による立法措置が必要である
反対意見・補足意見: 本件では反対意見は出されなかった。全裁判官が法文の明確性と先例の一貫性に基づいて同一の結論に達した。
法的推論の分析 (Analysis of Legal Reasoning)
適用された法理: 裁判所は以下の解釈原則を適用した:
– 制定法の明白な意味の原則(plain meaning rule)
– 法体系全体の調和的解釈
– 立法経緯の参照
– 確立された判例法の尊重
事実認定: 裁判所は、DABUSが高度なAIシステムであり、人間の直接的な介入なしに新しいアイデアを生成できることを事実として受け入れた。しかし、この技術的能力は法的な発明者資格とは別問題であると判断した。
技術的理解: 裁判所はAI技術の複雑性を認識しつつも、技術的進歩が自動的に法的枠組みの変更を正当化するものではないとの立場を取った。裁判所は、AIの能力と法的人格の区別を明確にし、前者が後者を必然的に導くものではないことを強調した。
法的意義 (Legal Significance)
先例価値 (Precedential Value)
将来への影響: Thaler判決は、米国におけるAI関連特許訴訟の基準となる先例を確立した。この判決により、以下の原則が明確になった:
– AIシステムは発明者として記載できない
– AI生成発明の特許保護を求める場合、人間の発明者を特定する必要がある
– 技術的革新性だけでは既存の法的枠組みを変更する根拠にならない
法理論の発展: 本判決は、AI時代における知的財産法の限界と課題を浮き彫りにした。特に、「発明」「着想」「創造性」といった伝統的概念がAI技術とどう関わるかという根本的問題を提起している。
解釈の明確化: 裁判所は、特許法における「individual」「inventor」「conception」等の重要概念について、AI時代においても従来の解釈が維持されることを明確にした。
規制・実務への影響 (Regulatory and Practical Impact)
AIガバナンス: 企業は以下の対応が必要となった:
– AI開発プロジェクトにおける人間の関与を明確に文書化
– 発明プロセスにおける人間とAIの役割分担を明確化
– AI支援による発明と人間による発明の区別基準の確立
コンプライアンス:
– 特許出願時に適切な人間の発明者を特定する内部プロセスの構築
– AI使用に関する開示義務の検討
– 発明者認定に関する社内ガイドラインの策定
業界への影響:
– AI開発企業は、特許戦略の再検討を迫られた
– 研究開発における人間の役割を強調する必要性が生じた
– AI生成発明の商業化戦略に影響を与えた
リスク管理:
– 発明者の誤記載による特許無効リスクの管理
– AI使用の適切な開示方法の確立
– 競合他社によるAI関連特許の無効化攻撃への対策
比較法的観点 (Comparative Law Perspective)
日本法との比較: 日本の特許法も発明者を自然人と解釈している点で米国と共通している。しかし、日本では以下の点で異なるアプローチが見られる:
– AI支援発明に関するより柔軟な解釈の可能性
– 発明者認定における実質的貢献の重視
– 特許庁による詳細なガイドラインの策定
日本の特許法第29条は「産業上利用することができる発明をした者」に特許を受ける権利を認めているが、「者」は自然人を前提としている。ただし、日本では職務発明制度が発達しており、企業への原始的帰属が認められている点で、米国とは制度設計が異なる。
他国判例との関係:
– 英国:高等法院及び控訴院はThaler氏の請求を棄却(同様の理由)
– EU:欧州特許庁も発明者は自然人でなければならないと判断
– オーストラリア:連邦裁判所は一時AIを発明者として認める判決を下したが、上級審で覆された
– 南アフリカ:世界で唯一、DABUSを発明者とする特許を付与(実体審査なし)
グローバルな影響:
– 国際的な特許ハーモナイゼーションへの影響
– WIPO等の国際機関における議論の活発化
– 多国籍企業の特許戦略への影響
重要なポイント (Key Takeaways)
実務家への示唆:
– 発明者特定の重要性: AI開発プロジェクトにおいて、各段階での人間の貢献を詳細に記録することが不可欠である
– 契約上の取り決め: AI開発に関わる契約において、発明の帰属と発明者認定に関する明確な条項を設けるべきである
– デューディリジェンスの強化: M&AやライセンシングにおいてAI関連特許の発明者認定を慎重に検証する必要がある
– 特許明細書の記載: AI使用を適切に開示しつつ、人間の発明者の貢献を明確に記載する戦略が求められる
今後の展望:
– 立法的対応の可能性: 議会によるAI発明者に関する特別法制定の可能性
– USPTOガイドラインの発展: AI支援発明に関するより詳細な審査基準の策定
– 国際的調和: WIPO等を通じた国際的な枠組み構築の動き
– 技術的進化への対応: より高度なAIシステムの登場に伴う法的課題の複雑化
注意すべき事項:
– 発明者宣誓書の正確性: 不正確な発明者記載は特許無効の根拠となり得る
– AI開示のバランス: 過度な開示は競合他社に攻撃材料を与える可能性がある
– 職務発明との関係: AI使用が職務発明の認定に与える影響を考慮する必要がある
– 営業秘密保護との選択: AI生成発明について特許出願するか営業秘密として保護するかの戦略的判断が重要である
このレポートに関する注意事項 (Warning/Notes)
– このレポートはサイト運営者がAIエージェントに文献等の調査・調査結果の分析・分析結果の整理・分析結果の翻訳等を行わせたものです。人間による追加的な調査や査読は行っておらず、内容には誤りを含む場合があります。
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