生成AI学習と著作権 (66)

川内 康雄

J.L. v. Alphabet Inc.

J.L. v. Alphabet Inc. 判例の要点 本件の統合訴訟はIn re Google Generative AI Copyright Litigation、23-cv-03440として裁判所命令に表記されている。複数事件の統合という一般的表現と、JPMLによる正式なMDL事件番号とは区別する。 事実関係: 本件は、GoogleがBard、Imagen、Duet AIなどの生成AI製品を開発・訓練する過程で、インターネット上から大量のデータを無断で収集・使用したとして提起された集団訴訟である。2023年7月11日、個人原告J.L.らが、Googleが著作権で保護されたコンテンツや個人情報を含むデータを、権利者の同意なく収集し、商業的AI製品の訓練に使用したと主張して訴訟を提起した。原告らは、Googleが「robots.txt」ファイルやその他の技術的保護手段を無視してウェブスクレイピングを行い、収集したデータから著作権管理情報を削除したと主張している。 中心的争点: – AI訓練データとしてのインターネットコンテンツの無断使用が著作権侵害に該当するか – 大規模言語モデル(LLM)の訓練におけるフェアユース抗弁の適用範囲 – 個人情報を含むデータの収集がプライバシー権侵害に該当するか – AI生成物が元の著作物の派生物として扱われるべきか – 技術的保護手段の回避がDMCA違反を構成するか 原告の主張: 原告らは、Googleが数十億のウェブページ、画像、その他のコンテンツを無断で収集し、これらを使用してAIモデルを訓練したことで、著作権者の排他的権利を侵害したと主張。さらに、収集過程で著作権管理情報(CMI)を削除したことがDMCA違反に該当し、個人情報の無断収集がカリフォルニア州憲法上のプライバシー権を侵害すると主張。原告らは、差止命令、損害賠償、不当利得の返還を求めている。 被告の主張: Googleは、AI訓練のためのデータ使用は変革的使用(transformative use)でありフェアユースに該当すると主張。また、公開されているインターネット上のコンテンツの使用は、暗黙の許諾があると反論。さらに、原告らが具体的な損害を立証していないとして、訴訟要件を満たしていないと主張している。技術革新と表現の自由の観点から、AIの発展を阻害する判決は公益に反すると主張。 AI/技術要素: 本件の中核となる技術は、Googleの大規模言語モデル(LLM)とその訓練プロセスである。Bardは、PaLM 2モデルを基盤とする対話型AIで、数兆のパラメータを持つ。Imagenは、テキストから画像を生成する拡散モデルで、LAION-400Mなどの大規模データセットで訓練されている。これらのモデルは、教師なし学習により、インターネットから収集した膨大なテキスト、画像データから言語パターンや画像特徴を学習している。 重要な手続き上の決定: 2023年11月、裁判所は関連する複数の訴訟を「In re Google Generative AI Copyright Litigation」として併合し、多地区訴訟(MDL)として処理することを決定。2024年2月、被告の訴え却下申立てに対し、裁判所は一部認容・一部棄却の判断を下した。著作権侵害の直接的請求は維持されたが、一部の州法に基づく請求は連邦法による専占(preemption)を理由に棄却された。2024年5月、原告らに修正訴状の提出が許可され、より詳細な事実主張が追加された。 証拠開示: 現在、証拠開示手続きが進行中。原告らは、Googleの訓練データセットの詳細、データ収集方法、著作権管理情報の処理に関する内部文書の開示を要求。Googleは、営業秘密と競争上の機密情報を理由に、一部の情報について保護命令を求めている。技術的詳細に関する専門家証言の準備が両当事者により進められている。 専門家証言:…

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川内 康雄

Silverman et al v. OpenAI, Inc. et al

Silverman et al v. OpenAI, Inc. et al 判例の要点 Silverman事件(3:23-cv-03416)はMDL No. 3143で共通の審理前手続の対象となった。個別請求の却下とMDLへの移送は性質が異なり、移送は著作権侵害の成否を判断したものではない。 事実関係: 本件は、著名なコメディアン・作家であるサラ・シルバーマン氏を筆頭とする著作者らが、OpenAI社に対して2023年7月に提起した集団訴訟である。原告らは、OpenAI社が同社のChatGPTおよびGPT言語モデルの訓練において、原告らの著作権保護された書籍を無断で複製・使用したと主張している。原告らによれば、これらの書籍は違法な「影の図書館」ウェブサイトから取得された可能性が高く、OpenAI社は著作権者の許諾なく、また対価を支払うことなく、大規模な著作権侵害を行ったとされる。 中心的争点: 1. AI訓練データとしての著作物使用が著作権侵害を構成するか 2. 大規模言語モデル(LLM)自体が著作物の派生的著作物(derivative work)に該当するか 3. AI訓練における著作物使用がフェアユース(公正利用)の抗弁により正当化されるか 4. ChatGPTの出力が訓練データの著作物と実質的類似性を有するか 5. AI開発企業が訓練データの著作権管理情報を保持する義務があるか 原告の主張: 原告らは、OpenAI社が数百万冊の著作権保護された書籍を無断で複製し、それらを使用してChatGPTを訓練したと主張している。特に、ChatGPTが原告らの書籍の詳細な要約を生成できることを証拠として、同社が著作物全文を取得・使用したことは明白であると論じている。さらに、大規模言語モデル自体が「侵害的派生的著作物」であり、訓練データなしには機能し得ないものであるため、その存在自体が著作権侵害を構成すると主張している。 被告の主張: OpenAI社は、AI訓練における公開情報の使用は変革的(transformative)であり、フェアユースの法理により保護されると主張している。同社は、ChatGPTの出力が原告らの著作物と実質的に類似していないこと、また訓練プロセスは学習目的であり商業的搾取ではないことを強調している。さらに、著作権管理情報の除去については意図的なものではなく、技術的プロセスの一部に過ぎないと反論している。 AI/技術要素: 本件の中核となる技術は、OpenAI社のGPTシリーズ(特にGPT-3.5およびGPT-4)である。これらは、トランスフォーマーアーキテクチャを基盤とする大規模言語モデルで、数千億のパラメータを持ち、インターネット上の膨大なテキストデータで訓練されている。訓練プロセスには、テキストの次の単語を予測する教師なし学習と、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)が含まれる。原告らは、このモデルが著作権保護された作品の「表現的情報」を内部に保持し、それを基に新たなテキストを生成していると主張している。 重要な手続き上の決定: 2023年7月の提訴後、OpenAI社は直接著作権侵害を除く複数の請求について棄却申立てを行った。2023年12月7日、カリフォルニア州北部地区連邦地裁のマルティネス=オルギン判事は口頭弁論を実施した。2024年2月12日、同判事は部分的棄却決定を下し、代位著作権侵害、DMCA違反、過失、不当利得の請求を棄却する一方、直接著作権侵害と不正競争の請求については訴訟継続を認めた。その後、2025年4月27日、本件はニューヨーク州南部地区連邦地裁の広域係属訴訟(MDL)第3143号に移送された。 証拠開示: 現時点では本格的な証拠開示(ディスカバリー)段階には至っていないが、原告らはOpenAI社の訓練データセット、データ取得方法、著作権フィルタリングプロセスに関する情報開示を求めている。特に、違法な「影の図書館」からのデータ取得の有無、著作権管理情報の処理方法、訓練データの保持期間等が重要な争点となることが予想される。 専門家証言: 技術専門家による証言はまだ提出されていないが、今後、AI訓練プロセス、自然言語処理技術、著作権侵害の技術的側面について、双方から専門家証人が召喚されることが予想される。特に、LLMが訓練データをどのように「記憶」し、出力にどの程度反映させるかという技術的メカニズムが重要な論点となる見込みである。 主要な判決内容: 2024年2月12日の部分的棄却決定において、マルティネス=オルギン判事は以下の判断を示した: 直接著作権侵害請求(継続): 裁判所は、訓練データとしての著作物の無断複製に関する請求については、現段階で棄却する理由がないと判断した。 代位著作権侵害請求(棄却): ChatGPTの出力と原告らの著作物との間に「実質的類似性」が立証されていないため、代位侵害の主張は成立しないと判断した。 DMCA違反請求(棄却): OpenAI社が意図的に著作権管理情報を除去したという証拠が不十分であるとして棄却された。 過失請求(棄却):…

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川内 康雄

Kadrey v. Meta Platforms, Inc.

Kadrey v. Meta Platforms, Inc. Case Metadata Basic Information Case Name: Kadrey v. Meta Platforms, Inc., No. 3:23-cv-03417 (N.D. Cal. 2025) Court: United States District Court for the Northern District of California Filing Date: July 7, 2023 Judgment Date: June 2025 (Summary Judgment) Case Number: 3:23-cv-03417…

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川内 康雄

Tremblay v. OpenAI, Inc. (In re OpenAI ChatGPT Litigation)

Tremblay v. OpenAI, Inc. (In re OpenAI ChatGPT Litigation) 判例の要点 Tremblay事件は3:23-cv-03223として2025年4月3日のMDL移送命令に記載されている。複数の記事に現れる旧裁判所の事件番号とMDLの番号は、個別事件と調整手続の番号であり、別々の最終判断を意味しない。 Plaintiff(s): – Paul Tremblay (Author, individual plaintiff; author of “The Cabin at the End of the World”) – Mona Awad (Author, individual plaintiff; novelist) – Sarah Silverman (Author/Comedian, individual plaintiff) – Christopher Golden (Author, individual…

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川内 康雄

Authors Guild v. OpenAI Inc.

Authors Guild v. OpenAI Inc. 判例の要点 Authors Guild事件(1:23-cv-08292)は、2025年4月3日のMDL No. 3143の移送命令に掲げられた事件である。共通の学習データに関する証拠開示等を調整する手続であり、学習利用の侵害・フェアユースやクラス認定の結論を決めたものではない。 事実関係: 2023年9月19日、米国の作家団体であるAuthors Guildと17名の著名作家が、OpenAI社およびMicrosoft社を相手取り、著作権侵害訴訟を提起した。原告らは、被告らが大規模言語モデル(LLM)であるChatGPTの訓練に、原告らの著作物を無断で使用したと主張している。具体的には、OpenAI社がインターネット上から大量のテキストデータを収集する過程で、原告らの出版された書籍を含む著作権で保護された文学作品を系統的に複製し、これらを商業的なAIシステムの開発に利用したとされる。 中心的争点: 本件の核心は、AI開発における著作物の利用が著作権法上どのように評価されるべきかという点にある。主要な争点として、①AIの訓練データとしての著作物使用が「フェアユース」に該当するか、②大規模な著作物の複製が「変容的使用」として正当化されるか、③AIが生成するテキストが原著作物の派生的著作物に該当するか、④損害賠償の算定方法、⑤技術的に訓練データから特定の著作物を除去することの実現可能性、などが挙げられる。 原告の主張: 原告らは、OpenAI社が数十億ものウェブページやテキストデータを収集する過程で、原告らの著作物を含む大量の著作権保護された作品を無断で複製したと主張している。さらに、ChatGPTが時として原告らの作品の文章をほぼそのまま出力することがあり、これは明白な著作権侵害であると論じている。原告らは、実損害賠償と被告らが得た利益の返還、または法定損害賠償として侵害された各作品につき最大15万ドルの賠償を求めている。また、侵害行為の差止めと、違法に取得されたデータセットの破棄も要求している。 被告の主張: OpenAI社は、AIの訓練における著作物の使用はフェアユースの範疇に含まれると主張している。具体的には、①AIモデルの訓練は変容的使用であり、原著作物とは異なる目的と性質を有する、②学習過程における一時的な複製は著作権侵害を構成しない、③ChatGPTの出力は新たな創作物であり、原著作物の市場を害するものではない、④AI開発は公益に資する技術革新であり、社会的価値を考慮すべきである、と反論している。 AI/技術要素: 本件で問題となっているChatGPTは、Transformer アーキテクチャに基づく大規模言語モデルで、数千億のパラメータを持つニューラルネットワークである。訓練プロセスでは、インターネットから収集された膨大なテキストデータ(Common Crawl、WebText、Books1、Books2などのデータセット)を使用し、教師なし学習と強化学習を組み合わせて言語パターンを学習する。技術的には、テキストをトークン化し、注意機構(Attention Mechanism)を用いて文脈を理解し、確率的に次の単語を予測する仕組みとなっている。 重要な手続き上の決定: 2023年12月にMicrosoft社が被告として追加された。2024年12月には、Ona T. Wang判事が事実審理の期限を2025年4月30日まで延長することを決定した。この延長は、訓練データの特定と分析に関する技術的複雑性を考慮したものである。2025年4月15日が訴状修正の最終期限として設定されている。 証拠開示: 証拠開示段階では、訓練データセットの構成と原告作品の使用状況の特定が主要な争点となっている。OpenAI社は、技術的制約と企業秘密の観点から、訓練データの完全な開示に抵抗している。一方、原告側は、侵害の規模と性質を立証するために、包括的なデータ開示を求めている。特に、どの作品がどの程度の頻度で訓練に使用されたかを示す技術的証拠の提出が焦点となっている。 専門家証言: 本件では、AI技術、著作権法、経済的損害の評価に関する複数の専門家証人が予定されている。技術専門家は、LLMの訓練プロセスと著作物の使用方法について証言し、著作権専門家は、フェアユースの適用可能性と変容的使用の概念について意見を述べる予定である。経済専門家は、原告らが被った損害の規模と、被告らが得た利益の算定方法について証言することが見込まれている。 裁判所の判断 (Court’s Decision) 本件はまだ審理中であり、最終判決は下されていない。しかし、関連する他の訴訟における裁判所の判断から、今後の展開を予測することができる。 主要な判決内容: 原記事の記載時点では最終判決は出ていないが、証拠開示段階での裁判所の判断から、以下の傾向が見られる:①裁判所は、AI訓練における著作物使用の法的評価について慎重な姿勢を示している、②フェアユースの抗弁については、個別具体的な検討が必要であるとの見解が示されている、③技術的複雑性を考慮し、十分な証拠開示期間を設定している。 命令された救済措置: 最終的な救済措置はまだ決定されていないが、原告らは以下を求めている:①実損害賠償および被告らの利益の返還、②法定損害賠償(各作品につき最大15万ドル)、③将来的な侵害行為の差止命令、④違法に収集されたデータセットの破棄命令。 重要な法的判断: 本件の結果は、AI開発における著作物利用の法的枠組みを決定づける可能性がある。特に、①大規模な著作物の機械学習への利用がフェアユースとして認められるか、②AIの出力が原著作物の派生的著作物として扱われるか、③技術革新と著作権保護のバランスをどのように取るか、という点で先例的価値を持つことが予想される。 法的推論の分析 (Analysis of Legal…

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