契約 (9)

川内 康雄

契約の成立・約款論:返品要求は拒否できるか

当方プリペイドカードの販売を行っています。偽造カードによる詐欺が多発しているため、発行元より、「返品は約款上いたしかねます。返品をご希望の際には発行元にご連絡ください」と告知するように指導がありました。このような告知は有効なのでしょうか。また返品の要求を拒むことは可能でしょうか。 定型的に行われる物品やサービスの提供に関する取引条件の確定のために約款を作成するということがよく行われています。現在は民法548条の2以下に定型約款の規定があります。定型取引に当たる場合、定型約款を契約内容とする旨の合意があるとき、又は約款準備者があらかじめその旨を相手方に表示したときには、原則として各条項への合意が認められます。ただし、相手方の権利を制限し義務を加重する条項で、信義則に反して一方的に利益を害するもの等は別に扱われます。消費者契約法による無効も確認します。返品というのは、法的に評価すれば、「売買契約を合意解約して目的物と代価を相互に返還する」ことを意味します。つまり返品というのは、お互いが合意して成り立つもので、販売者側でも、購入者側でも、その一方的な意思により返品を要求することはできません。権利として要求できるのは売買の目的物が契約の内容に適合しない場合等や、履行が遅延した場合のみです。 そのため売り渡したプリペイドカードがそれ自体が偽造品であったという場合でなければ、民法上、返品に応じる義務はありません。つまり御質問の例では、約款を引き合いに出すまでもなく、もともと返品は拒否できるという結論になります。 以上は購入者都合の任意返品の説明です。契約不適合、錯誤・詐欺による取消し、通信販売の返品特約・返品制度、前払式支払手段の発行業務廃止時の法定払戻し等の権利がある場合は別に検討します。

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川内 康雄

未成年者:親権者の同意を取った契約の効力

当社では未成年者と契約する際には親権者の同意を取るようにしています。未成年者が契約で定められた料金を支払わなかったとき、親権者に対して請求することはできますか。 民法5条1項では、未成年者が法律行為をなす場合には法定代理人の同意が必要とされています。同意がない未成年者の行為はこれを取り消すことができます(同条3項)。そのため、未成年者と契約するときに法定代理人である親権者の同意を得ておけば、後々取り消されてしまうということがなくなります。 もっともこの法定代理人の同意はこの「後から取り消されない」という効果を発生させるのみで、それ以上の効果を有するものではありません。未成年者と親権者は別の法的主体ですので、債務保証をしているなどの関係がない限り、未成年者の債務を親権者に対して請求することは、法律上には不可能です。 なお未成年者が不法行為によって第三者に損害を与えたときに、かかる第三者は法定代理人に責任を追及できる場合があります(民法714条)。しかし単なる契約上の債務の不履行であれば、不法行為となる可能性は低いですから、やはり法定代理人への請求は難しいでしょう。 もちろん法定代理人が未成年者の債務を任意に支払ったときには、この支払いは法的には有効です。そのため一般的には、お話し合い等によりかかる任意の履行を促すのが通常でしょう。 2022年4月1日から成年年齢は18歳です(民法4条)。18歳・19歳は年齢だけを理由とする未成年者取消しの対象になりません。また親権者を保証人とするなら、単なる同意書とは別に保証契約を締結する必要があり、保証は原則として書面又は電磁的記録によらなければ効力を生じません(446条)。

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川内 康雄

機密保持契約:契約違反を理由に取引が潰れた場合損害賠償ができるか

当社は食品卸業を営んでいます。継続的な営業の結果、ある大口の客先との契約が取れそうになりました。この経緯を当社のある株主に報告したのですが、この株主が客先に連絡を取ってしまい、結果、客先が不審がって今回の契約が破談になりました。この株主とは機密保持契約を締結しているのですが、今回の損害の賠償の請求をすることができるのでしょうか。 損害賠償の請求をするにあたっては3つの問題を検討しなければいけません。まず機密保持契約を締結しているとのことですが、多くの機密保持契約は契約上機密となる範囲が限定されています。そのため契約を検討し、営業上の報告内容が機密保持義務の対象となっているかをまず調査しなければいけません。 次に今回契約を締結できなかった原因が、他の何らかの要因ではなく、まさにその株主が連絡を取ったことにあることが立証できることが必要です。訴訟上この点を立証するのは必ずしも容易ではありません。 最後にこの契約が取れなかった事による損害を立証できることが必要です。損害の内容はこの契約が取れていた場合の利益という事になりますが、将来のことであり、仮定的要素を含みますので、合理的な判断材料がそろわない限りは、立証したと見なされません。 このように御質問のようなケースでは訴えて賠償請求するのは不可能ではないが困難を伴うという結論になると思われます。 請求の根拠は契約上の債務不履行責任(民法415条)であり、通常損害と、特別事情を予見すべき場合の特別損害(416条)を区別します。交渉記録、成約見込みを示す資料、得られるはずだった売上から必要経費を控除した利益等を整理することが、因果関係と損害額の立証に役立ちます。

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川内 康雄

秘密保持契約:独立した契約と基本契約内の義務との違い

当社では秘密保持契約書を締結する場合に、単に秘密保持契約書だけを締結する場合と、取引契約書を別途締結し、この契約に関わる情報を秘密情報として特定した上で秘密保持契約書を作成する場合があります。それぞれの方法についてのメリット・デメリットはなんでしょうか。 契約自由の原則の下、秘密保持契約の対象事項を限定することも可能ですし、包括的な秘密保持契約を締結することも可能です。効力自体には違いがありません。いずれの方式をとるかについては、自社の秘密情報と相手方の秘密情報の重要度、自社からの情報提供量と相手方からの情報提供量を比較し、また、取引に付随しない情報のやりとりがあるかどうかを総合的に検討しなければいけません。情報を渡す側であれば包括的な契約の方が望ましいという事になりますし、情報をもらう側であれば限定的な契約の方が望ましいと言うことになります。 なお包括的な秘密保持契約とする場合でも、対象事項については、「秘密であることを明示したもの」に対象事項を限定したり、例外事項を定めたりすることにより、対象の範囲を大幅に絞ることは可能です。義務が重くなりすぎるようであればこの点工夫すべきでしょう。

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川内 康雄

覚書の法的効力:覚書という題名は効力に影響があるか

取引上、「覚書」というタイトルで文書を取り交わすことがよくあります。この「覚書」という体裁は、他に取引の基本となる契約書を締結した後でないと効力は発生しないものなのでしょうか。 合意事項を記載した書面について、タイトルを「契約書」とするか、「覚書」とするかによって法的な効力が変わることはありません。また締結にあたっても、「契約書」を作成した後、その修正や条項の追加という意味で「覚書」を作成することもできますし、単に「覚書」のみを作成して、当事者間の合意事項を全て記載するということも可能です。どちらも法的な効力に違いはありません。 もっとも「契約書」と「覚書」を別の書面としている場合で、客観的に別の合意事項と判断できる場合には、それぞれ独立して契約の解除が可能になります。この点はビジネス上メリットになる場合もあればデメリットになる場合もあるでしょう。 ただし、別書面であれば必ず独立して解除できるという意味ではありません。解除条項、基本契約との関係、合意の一体性や解除原因を確認します。書面の表題よりも具体的な内容と当事者の合意が重要です。

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